観光庁が学校教育で推進する「観光教育」とは? 教師でなくDMOらが主体となる理由を聞いてきた
失敗OK、大切なのは自分で考えること
では、地域が主体となって観光教育に取り組むことは、その地域にとってどんな意味があるのか。 「今、日本各地で少子高齢化と過疎化が進んでいます。働き手や地域の担い手が都市部におこなってしまい、10年後、50年後には地域が消滅してしまう地域もあるかもしれません。でも、それは地域の方も望まないですよね。観光教育を通じて地域の本質を知り、未来を考えることで地域に愛着を持ってくれたら、都市部に出ていく子どもの数を抑えることができるかもしれませんし、都市部に行った子も何かしらの形で地域のために働いてくれるかもしれません。観光教育には人材育成という側面がありますが、決してそれだけではありません。10年後、50年後も地域の人々が笑顔でいられるための希望を持ってもらうための学びでもあるのです。」 探究学習は文部科学省に任せればいいという声もあるようだが、文科省の管轄は学校であり、地域を指導する立場にはない。そこで、観光という視点を通じてより地域を深く知る観光教育を観光庁が推進しているというわけだ。 「今年度のモデル事業では、授業のやり方は地域と学校にお任せしています。ただ、先生が成功に導こうとして、生徒が考えたつもりになってしまうことは避けたいなと思っています。そこで、学びのゴールは生徒自身に考えてもらうことにしています。」 この学びのゴールとは、地域課題を解決するサービスや、新たな特産品となるようなヒット商品を生み出すことなのだろうか。 「すぐに採用されるような商品や課題解決策が出てくれば最高ですが、それがゴールではありません。自分で考えることこそが学びなのですから、失敗してもいいし、お門違いの意見を出しても構いません。地域の大人にとっても、生徒の率直な意見を聞くことは新鮮な体験になるでしょう。モデル事業の終盤には生徒が地域で感じたこと、考えたことを発表する発表会をおこない、保護者も招く予定です。高校生が進路を考える際は親の影響が大きいので、子どもが何を考えているのか、知ってもらうのです」 このモデル事業で得られた知見は、シンポジウムなどを通じて全国のDMOや観光協会、自治体、そして高校に広めていくという。 産業としての裾野が広く、業種が多様な観光産業は、雇用の受け皿であると同時に、地域社会とさまざまな形でつながっている。少子高齢化が進む中、地域が将来にわたって維持され、発展していく。そんな未来を考える上で、観光教育が新たな一手となる可能性もある。地域と学校が連携して進める観光教育に期待したい。 次回の記事では、地域と学校で取り組む観光教育の今を取り上げる。 取材・記事:REGION 鷲山淳 / フリーライター吉田渓
トラベルボイス編集部