政見放送で「政府転覆」主張 元祖・異色候補が見る乱立の東京都知事選
史上最多の56人が立候補した東京都知事選(7月7日投開票)では、計約11時間にも及ぶとされる政見放送での各候補者の主張も注目されている。そこで思い出されるのが、平成19年の都知事選での、ある候補者の政見放送だ。画面越しに挑むような視線で「政府転覆」を呼びかけ、最後に中指を突き立てたスキンヘッドの男性。彼は、乱立する現在の〝異色候補〟の源流となったのではないか。そんな疑問を抱き、会いに行ってみた。 【表でみる】東京都知事選の立候補者一覧 ■「一世一代だった」 「民主主義に反対する立場から、選挙制度をむちゃくちゃにするために(都知事選立候補を)やりましたから。そういう意味では、ついにここまで来たといえる」 東京・高円寺のバーでカウンターに立つ外山恒一氏(53)は、こう語った。革命家を自称するだけに、温和さの中にも不敵な様子がにじむ。今月25日、外山氏が経営に関わるバーを訪れ、趣旨を説明すると、アポイントなしの取材にもかかわらず、快く応じてくれた。 故郷の九州を拠点に政治活動を展開していた外山氏。19年都知事選に出馬した狙いは「思想を同じくする仲間を集めること」だった。当初、戦略の中核としていたのは選挙ポスター。メッセージ性の高い内容と、集会の日時を掲載することで、自身の思想の広がりを狙ったという。 政見放送は、悩んだ揚げ句に行うことに。ただ、やると決めたら完成度を求めた。何度も推敲しては暗記し、フレーズごとに話し方に変化を付けた。自分にとっても面白いと思える内容、話し方を磨き上げた結果が、あの約5分間だった。 「あえて声のトーンを上げて、注目されるようにした」という外山氏。確かに、目の前で話す声はあの時よりもかなり低い。アドリブはなし、全てが綿密な計算のもとで行われた。 「私にとっても一世一代。あれを超えることはできないでしょう」と振り返る。当時、相当の反響があったというが、それは外山氏の活動を縛ることにもなった。 「仲間集めのつもりでやったのに、ミーハーな人ばかり集まってしまって。収拾が付かなくなった。(集会で)自分がしたい話も成り立たない」。都知事選前後、複数の地方議員選挙にも出馬したが、もう15年以上、選挙には出ていない。今後も自身が出馬することはないと断言する。