【卓球】WTT女子ファイナルズ。あと1本、あと数mm。日本の早田と張本が示した世界最強・中国との距離感
五輪金メダリストを追い詰めた早田。「1、2本の差ではなく、1球の迷いの差」(早田)
●女子シングルス1回戦(ベスト8決定戦) 伊藤美誠(日本) 6、-9、3、5 A.ディアス(プエルトリコ) 孫穎莎(中国) -6、9、8、-3、6 張本美和(日本) 陳夢(中国) 5、-15、-7、8、6 早田ひな(日本) 12月15日から名古屋で行われている卓球の『WTT女子ファイナルズ2023』。女子シングルス1回戦で早田ひな(日本生命)と張本美和(木下アカデミー)が素晴らしい試合を見せた。 早田は東京五輪金メダリストの陳夢と対戦し、互角の打ち合いを見せた。彼女は10月以降、プレーの改造に取り組んでいる。もともとドライブというスピン系の技術に長けている早田は、それでは中国に勝てないと「速さ」を取り入れている。 しかし、口でいうほど簡単な改造ではない。ドライブ系の技術は斜め上方向へのスイングだが、それをより水平方向へのスイングに変えたり、より台の近くで戦う必要もある。そして何よりリスキーな卓球になるのだ。皮を切らせて骨を断つような、ハイリスク・ハイリターンな卓球。しかし、これをやらねば中国に勝てないと早田は考えている。 これまで6連敗している陳夢に対して、早田のこの戦法は途中まで機能していた。しかし、ハイリスクな攻めを5ゲームやり切るのは難しく、完成形のために試行錯誤をしている状態だ。 「中国選手に勝とうとやってきて、今回は自分の練習をしてきたことを出せた部分はあるけど、今回は1、2本の差ではなく、ラリーの中の1球の迷いが勝敗を分けた。できるはずなのにできなかった悔しさを感じています。今までの陳夢戦と同じ部分もあるけど、違うやり方をして真っ向勝負でやってゲームも取れた、そういう手応えもあった」。試合後に早田はコメントを残した。
世界女王に敗れるも、張本美和の恐るべきポテンシャル。伊藤美誠は唯一の8強入り
一方、15歳の張本はその恐るべきポテンシャルを日本のファンと、世界へのライブ配信を見つめるファンの人に見せつけた。世界チャンピオンの孫穎莎(中国)を敗北の崖っぷちまで追い詰めた。 試合は最終ゲームにもつれ込み、3-0とリードしたところで、中国側がタイムアウト。この後、「タイムアウト後にプレーの質が高くなったと感じた」と張本が言うほど、世界女王はギアを上げた。孫の攻撃をしっかり守り、自分の攻撃につなげた張本だが、最後がバック対バックからフォアに回したボールをフォアストレートに抜かれるなど、孫の攻撃力がわずかにまさった。 試合後に張本の目から涙がひと筋流れた。それは世界チャンピオンを追い詰めた満足感ではなく、追い詰めたのに勝てなかった悔しさだった。 「中国選手には近づいている。自分のやっていることは間違ってなかったけど、勝ちきれなかった部分は課題。でもラリーになったらチャンスがあると思った」と試合後にコメントした張本。彼女が15歳であることを忘れてしまう。子どもの卓球ではなく、しかも成長段階。中国でさえ、張本美和が世界の頂点に近づいていることを肌で感じているはずだ。 日本女子では、伊藤美誠だけがベスト8に進んだ。プエルトリコの天才と言われるディアスに完勝。体調不良でかすれ声である。「すいません。声が出なくて。日本のファンのためにも勝ち進めてうれしい」と短くコメントした。 メディアはことさらオリンピック代表の選考ポイントを気にするが、準々決勝で中国のトップ3のひとりである陳夢に勝てば10点が加点される。困難な壁ではあるが、挑戦するしかない。中国の壁に挑んだふたりと、これから中国に壁にぶつかる伊藤の戦いぶりだった。