山寺宏一&伊瀬茉莉也が語る、ノリノリで挑んだ『ビートルジュース ビートルジュース』“全身吹替”の裏側「型取りに4時間、特殊メイクに5時間…」
ティム・バートン監督最新作『ビートルジュース ビートルジュース』(公開中)。バートン監督の出世作『ビートルジュース』(88)の35年後を描く本作は、ひと足先に公開された全米で3週連続No.1を獲得し、全世界興収は3億ドルを突破するなど大ヒットを記録している。 【写真を見る】違いがわからない?驚異の再現度な“全身吹替”ポスターの比較画像! 前作に引き続きビートルジュース役のマイケル・キートン、リディア役のウィノナ・ライダー、デリア役のキャサリン・オハラが続投しているのも話題となっているが、日本語吹替版では、吹替えだけでなく姿形まで完全にキャラクターに変身する“全身吹替”という史上初の試みが行われた。山寺宏一、坂本真綾、沢城みゆき、伊瀬茉莉也、小林千晃、森川智之、山路和弘、戸田恵子といった豪華声優陣が、まさに全身全霊でティム・バートンワールドに飛び込んだ。 MOVIE WALKER PRESSでは、そんな“全身吹替“に挑んだビートルジュース役の山寺と、アストリッド役の伊瀬にインタビュー!“全身吹替”の裏話や、前作から35年後を描く作品で同じ役を演じることについて感じたこと、さらにビートルジュースが“人間界への移住”という野望を持っていることにちなみ、2人に現在の野望や目標について語ってもらった。 ■「山寺さんの演技は、マイケル・キートンがしゃべっているようにしか思えなかった」(伊瀬) ――もともと前作『ビートルジュース』にはどのようなイメージを持っていましたか? 山寺「『ビートルジュース』と聞くと、ティム・バートン監督のヒット作!というイメージと、マイケル・キートン演じる白塗りのビートルジュースがまず浮かびます。ホラーコメディってこういうことだなと感じさせる映画だと思います。今回吹替えをやってみて、やはりホラーコメディの決定版、これぞ“THE ホラーコメディ”だと改めて感じました」 伊瀬「1作目が公開されたのが1988年。いまから36年前で、ちょうど私が生まれた年なんです」 山寺「ズバリだね」 伊瀬「作品を知ったのはリアルタイムではないけれど、今回しっかりと観て感じたのは、ティム・バートン監督の表現したい世界観は、『ビートルジュース』のころからずっと根付いていたんだということ。ずっとブレていないんだなと思いました」 ――ビートルジュースを演じてみていかがでしたか? 山寺「難しかったです。マイケル・キートンもだいぶ声を作っていて。いつもの吹替と同じように、自分のできる範囲で役に寄り添って、オリジナルの役者と同じような発声で演じることを心掛けました。声を作っているところもあれば、意外と普通にしゃべっているところもあって、マイケル・キートンがいろいろ使い分けているんです。吹替版だけ観ると、『なんか山ちゃん、変に声を作ったり、急に普通にしゃべるところがある』って思う人もいるかもしれません。でも、オリジナルのマイケル・キートンがそうやっているので、ということをまず、皆さんが観る前に言っておきたいです(笑)」 ――両方観て楽しんでほしいですね。 山寺「ぜひ、そうしていただきたいです。プロモーションのために“全身吹替”までして頑張ったので、話題にならなかったら困ります!」 ――かなり話題になっていましたし、好評だったと思います。 山寺「“全身吹替”は、ね。でも、『ビートルジュース』の吹替版といえば、西川のりお師匠というファンの方もいらっしゃいますから。『のりお師匠じゃないのかよ!』『字幕版に決定だ!』なんてコメントもありましたし(笑)。師匠みたいなおもしろいことはできないけれど、30年以上吹替えの仕事をやってきたので、こんなふうにやったらみんなに楽しんでもらえるんじゃないかなというアプローチで挑みました。声優として頑張りましたので、まずは観てほしいです。観てみて、『やっぱり、のりお師匠がいい!』ってなったら、以降は字幕版でお楽しみください(笑)。ネガティブなことも言っちゃいましたが、とにかく話題になってほしい。いろいろな論争が起きるのもいいなって思います。盛り上がりますから」 伊瀬「試写でいち足早く吹替版を観たのですが…」 山寺「いま、事務所の後輩が、ネガティブな先輩をフォローしようとしてくれています!(笑)」 ――すばらしい入りでした(笑) 伊瀬「アハハハ(笑)。でも、試写で観た時に最初に思ったのは、マイケル・キートンがしゃべっているようにしか聞こえなくて」 山寺「ありがとうございます」 伊瀬「『ビートルジュース』ファンの方はいろいろ話題にして盛り上がってくださると思いますが、ぜひ、字幕版、吹替版の両方を観たうえで盛り上がっていただきたいです。自信を持って話題にしてください!と言える仕上がりになっていますので」 山寺「そのとおりです!茉莉也ちゃんをはじめ、よくもまあこれだけのすばらしいメンバーが集まったなと。しかも扮装までしなきゃいけないのに(笑)」 ■「本当に僕以外の“全身吹替”はみんなかっこいい…(笑)」(山寺) ――まさに全身全霊の“全身吹替”はいかがでしたか?かなり作り込まれている印象です。 山寺「役作りに役立ったのでは?と訊かれるのですが、“全身吹替”の撮影はアフレコのあとで、実は役作りには役立っていません(笑)」 伊瀬「そうなんですよね。山寺さんは特に時間をかけたのに(笑)。何時間くらいかかったんですか?」 山寺「特殊メイクの型取りに4時間、メイクに5時間、撮影に3時間です」 伊瀬「私は見てのとおり、人間の役なので…」 山寺「特殊メイクの必要はないよね(笑)」 伊瀬「そうなんです。でも宣伝担当者からは、『似せるとか再現ではなく、完璧な“全身吹替”をお願いします』と言われて。最初、どういうことだろう?って思いました(笑)」 山寺「そうですよね(笑)」 伊瀬「ここまでやるなんて、私も映画に出るんじゃないかみたいな感覚になりました(笑)。“全身吹替”は史上初だということ、そして山寺さんの全身吹替がどんなものになるのかも聞いていたし、宣伝スタッフの熱い想い、作品に対する愛情を感じたので、『このお祭りに乗っからせてください、一緒に神輿を担がせてください』みたいな気持ちでした。ノリノリでやらせてもらったし、本当に楽しかったです」 山寺「メイク中は表情の練習とかしながら、特殊メイクチームと仲良く話をして。大変だったけど、僕も楽しかったです。メイクの様子を自分で撮影して、タイムラプスで16秒にまとめた動画もあります」 伊瀬「16秒(笑)」 山寺「5時間かけたのにね(笑)。大きいポスターで見るとわかるけど、コンタクトを入れたり、爪の先までオリジナルと同じようにして汚しも入れたりしているんですよ。そしたら、誰かが『ダメだった部分はレタッチ入れます!』と言ってて。だったら、全部それでできるだろう!なんて思ったりした瞬間もありました(笑)」 ――そこまでやってくださっているというのを知ると作品のファンとしてはテンションが上がります。 山寺「ティム・バートン監督も、マイケル・キートンもCGを使いすぎないことにこだわっていると聞いたので、『それなら僕も!』という想いもありました。スマホのフィルターなどでも、ある程度加工できる時代に、アナログで時間をかけてやることは間違ってないって。と同時に、“これであなたもビートルジュース”なんてアプリができたら、僕が5時間かけてやったことをみんなが簡単にできるようになっちゃうかもなんて思ったりもするけれど(笑)」 ――そのアプリがあったら楽しそうですね(笑)。ご自身以外の全身吹替の感想もお願いします! 伊瀬「撮影前に沢城さんのビジュアルを見せてもらった時は、『みゆき姉さん、かっこいい…』って惚れ惚れしちゃいました。私もこんなふうに撮ってもらえるんだってワクワクもしたし」 山寺「みゆきちゃんはホチキスを使ったりしているけれど、元はモニカ・ベルッチですから。女性陣はみんな綺麗系だからいいじゃない。僕なんてねぇ…(笑)」 伊瀬「でもビートルジュースそのものでしたよ。爪の先に汚しを入れていたと聞いて、さすがだなって」 山寺「ありがとうございます。森川(智之)くんのメガネなし、オールバックはネットでも話題になっていたけれど。最初は『誰?』って思いましたね。すごく新鮮で、かっこよかったです。ウルフ役の山路(和弘)さんも脳がすごいことになっているけれど、元々がかっこいいから。『(本格的な“全身吹替”に)参ったよ』みたいなことを言ってたけれど、絶対楽しんでいたと思います。小林(千晃)くんはポスターではすごくちっちゃく写っているけれど、アップになったのを見たら普通にかっこいいんですよ。本当に僕以外はみんなかっこいい…(笑)」 ――何度も見たはずのビートルジュースでしたが、全身吹替と言われるまでわからなかったです。ポーズも完璧です! 山寺「よかったー。マイケル・キートンは歯も特殊メイクでつけていると思うんですが、僕は自分の歯なんですよ。でも、やるなら徹底してやりたいし、『すげー!』って言われたいので、かなり頑張りました。ここまでやったのに『ふーん』や『へー』とは言われたくないので(笑)」 ――ネットはかなり沸いていました! 伊瀬「ですよね。ティム・バートン監督も全身吹替版のポスターを見てくださったそうで。もちろんファンの方の反応も気になりましたが、監督はどう思うのかなってすごく気になっていて。見た瞬間に『全身吹替版ポスター10枚ちょうだい!』って言ってくださったと聞いてすごくうれしくなりました。『日本の宣伝チームはクレイジーなことをやってくれた、エキサイティングだ!』と喜んでくださったそうです」 ――最高の反応ですね。バートン監督公認です。 山寺「うれしいですね。やった甲斐があった!」 伊瀬「光栄です!」 ■「声も経験値も変わるから、年を重ねたら演じる声優が変わってもいいと思う」(山寺) ――ビートルジュースの野望は人間界への移住です。お2人のいま現在の野望はありますか?個人的なこと、そして、お仕事面では「声優界の◯◯になる!」みたいな野望があるのかを伺いたいです。 山寺「僕は長寿第一でとにかく長く仕事がしたいです。数日前も大先輩の羽左間道夫さんとイベントのお仕事でご一緒したのですが、90歳なのに現役で舞台に立たれている。本当に憧れますし、目標です。声優界の◯◯みたいなのは考えたことないかなぁ」 ――すでに言われているものもありますよね。 山寺「いやいや、まだまだです。僕が声優になったのは、大学の時に落語研究会に入ったのがきっかけです。古今亭志ん朝さんの大ファンで、いまもずっと志ん朝さんの落語を聴いています。落語をやっている人で志ん朝さんに憧れていない人はいない。声優界と落語界という違いはあるけれど、目指すなら“声優界の古今亭志ん朝さん”になりたいと思い続けたいですね」 伊瀬「私がもともとこの業界を目指したきっかけはアニメの映画監督になりたかったからなんです。その後、声優として20年お仕事してきましたが、これからは演じることだけじゃなくクリエイターの方たちと一緒に作品をつくったり、アニメ業界全体を日本だけでなく、世界中に伝えていけるようなことをしたいと思っています。そのための活動、今後の展開を考えてちょうど動き始めているところです。私の場合は個人的な野望と声優界の◯◯が同じになっている感じです」 ――声優界、多彩な方が多いですね。いろいろな展開も増えてきましたし、今後も楽しみがたくさんありそうです。 山寺「本当に、楽しみですよね。僕なんて業界のためになんて考えたことない。自分のことしか考えてないよ(笑)」 伊瀬「そんなことないです!」 ――結果、声優界のためになることをやってきていますから。 山寺「うれしい!ありがとうございます(笑)」 ――ちなみにマイケル・キートン、ウィノナ・ライダー、キャサリン・オハラは前作から続投。声優さんは1つの役を長く演じることも多いですが、本作のように36年ぶりに同役を再び演じるというケースをどう思いますか? 山寺「茉莉也ちゃんの場合は、デビューした時の作品の役をあと15年後にやるってことだよね。想像してみてどう?」 伊瀬「また演じさせていただけるのはすごくありがたいですけれど、いろんな経験値を得た自分がその当時のお芝居を求められたら、ちょっとハードルが高いなとは思います。山寺さんはそういう経験ありますよね?」 山寺「つい最近も発表された作品でもありますね(笑)。びっくりしましたけれど。『ビートルジュース』の場合は35年後を描いているから同じ役でも特に問題はないかなって思うんです。ましてや死後の世界だから、数字はあってないようなものだし(笑)。でもアニメのキャラクターの場合は大変ですよ。こっちは声も経験値も変わっているんだから。僕自身は、年を重ねたら演じる声優が変わってもいいと思っています。もちろん、年を取ったからダメと言われたくないから、オファーが来たら頑張るけれど、基本的には年相応の役をやればいいかなって。でも、確かに、大好きなキャラクターは、無理をしてもどうかなと思いながらも、自分がやりたいという気持ちもあります。声のキープも大変だし、歳を重ねれば芝居にも余計なものがくっついてくる。だけど、そこを踏まえて対応できるようにいなきゃダメという気持ちで、芝居でちゃんとできるようにという想いは常に持っています」 取材・文/タナカシノブ
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