井岡一翔は日本人初の4階級制覇を果たせるのか。そしてその先に抱くビッグマッチ構想とは?
3階級を制覇したWBO世界フライ級王者の田中恒成(24、畑中)が、井岡が勝った場合、自らも階級を一つ上げての井岡への挑戦を熱望しているが、「申し訳ないが、タイトルを取って海外で(防衛戦を)やっていきたい。その思いで復帰した。国内(の選手)とやるために復帰したわけじゃない。そういう気はなかった」と、関心を示さなかった。 この試合の勝者には指名試合が義務づけられているが、現時点で指名挑戦者は未定。先月25日、米国フロリダ州キシミーでWBO世界スーパーフライ級挑戦者決定戦として同級4位の江藤光喜(31、白井・具志堅)と同級5位のジェイビエール・シントロン(24、プエルトリコ)が対戦、江藤が1ラウンドに衝撃のTKO勝利を収めたかのように見えたが、抗議を受けてビデオが見直されパンチでなくバッティングによるダメージだったと判断され無効試合となったのである。両者の再戦か、新たなカードが組まれるのか、現時点で決定していないため、井岡の指名試合の相手は宙ぶらりんになっている。 WBOの裁定待ちだが、もし指名試合よりも先に選択試合ができるのならば、第1ターゲットは、4月にシーサケット・ソールンビサイ(32、タイ)を破って新王者となったWBC世界同級王者、ファン・フランシスコ・エストラーダ(29、メキシコ)との統一戦である。 実は井岡とエストラーダには因縁がある。井岡がWBA世界フライ級王者時代、エストラーダがWBA世界同級スーパー、WBO同級の統一王者だったが、WBAから指令された統一戦を行わなかったため一部のファンから「逃げた」と批判された経緯があるのだ。エストラーダが2団体王者だったため、両団体の絡みで交渉が難航したことと、彼が階級を上げる計画だったことなどの事情で実現が難しかっただけの話だが「逃げていない」のに「逃げた」とされた”汚名返上”への反骨心が引退を撤回した理由のひとつにある。 この日も改めて「自己満足かもしれないが、好きにやりたいことをやる。世間の評価を求めてやっていない。自分で納得する形で期待してくれる人、応援している人の期待に応えたい。(日本で試合をやれることに)甘んじて、だらだらと日本でやるつもりはない」との”ぶれない哲学”を語った。 元4階級王者の”ロマゴン”ことローマン・ゴンザレス(32、ニカラグア)との決着もつけたい。”ロマゴン”に関してもWBA世界ライトフライ級王者時代に統一戦指令から「逃げた」という”非難中傷”を受けたことがある。ただ現在”ロマゴン”自身が、WBC、WBAのランキング上位にいるものの、まだ完全な再起を果たせていないため今の状況での対戦に関しては躊躇しているという。 スーパーフライ級には、他団体にもWBA同級王者のカリド・ヤファイ(30、英国)、IBF同級王者のジェルウィン・アンカハス(27、フィリピン)という防衛を重ねている名王者がいて井岡の目線は日本人対決よりも世界の強敵とのベルト統一に向かっている。 今回の試合は「UFCチャンネルパス」というストリーミングサービスで全米に中継されることになり、この日は、同メディアの英語での事前インタビューも行われていた。世界での統一路線へ飛び立つためには海外でのネームバリューも必要になる。だが、その前に2度目のチャレンジとなる偉業を達成しなければ、ドリームマッチどころか、引退へ追い込まれることになる。 「僕もみなさんもわかっているように簡単なことじゃない、前回失敗してから、ありがたいことに復帰戦でダイレクトでタイトルマッチが決まって、そこからの日々にかける思いがあった。今は気持ちとして充実しているが、明日のためにやってきた。明日のために時間を継ぎ足してきた。明日、結果を必ず出したい」 ボクシング人生を懸けた勝負のゴングは、嵐のような風が海外から吹くことで知られる千葉の幕張で午後9時過ぎに。きっと何かが起きる。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)