ホンダ・日産の経営統合問題に突如現れた第3のプレーヤー「鴻海」の目的
ユニークかつ合理的なSDVコンセプトを掲げるホンハイの深謀遠慮
日本経済新聞のスクープで始まった、ホンダと日産の経営統合問題。連日報道が続くなか、突如現れたのが「鴻海精密工業(英通称:Foxconn)」という日本では知る人が知る台湾企業の名前だ。iPhoneの生産受託(EMS)を始め、日本のシャープを傘下に収めたことでも知られる世界最大手のEMS(電子機器受託生産)企業が日産株の取得に動いているという。(※本記事は2024年12月20日時点の情報をベースに作成しています) 【写真】ホンハイのEVたち 当初、日産に食指を伸ばしている中国自動車メーカーがあると一部報道があったようだが、実際に水面下で動いていたのは台湾の巨大EMS(電子機器受託生産)企業だった。そんな巨大企業がなぜ一見畑違いの日産自動車に興味を示しているのか。 実は「鴻海精密工業(以下、ホンハイ)」は、EV事業への参入を発表している。2020年10月の自社イベントで「MIH(Mobility in Harmony)」というコンセプトを打ち出し、ソフト領域からハードウェアまで世界中から参加企業を募って、それぞれの得意分野を互いに供出し合うまったく新しいEV開発の仕組みを構築することを発表している。2021年には自社ブランド「FOXTRON」を発表し、以後、その名を冠したコンセプトカーシリーズを発表し続けている。10月にはジャパンモビリティショー2023にも出展していたので知っている人もいるかもしれない。 従来の自動車産業は、基本的に自前主義である。商品企画・技術開発、設計・車両開発そして生産に至るまで、すべて自社および関連企業で行うのが通例だ。それゆえ、多くの自動車メーカーは開発にかかる時間とコストの圧縮に追われる一方、顕著になってきたSDV(Software Defined Vehicle:ソフトウェア中心のクルマ)の流れに翻弄されている。 だったら、それぞれが得意な技術を持ち寄れば、クルマの開発や生産はもっとスピーディかつローコストで実現できるのではないか。「MIH」の考え方はシンプルかつ合理的だ。 とはいえ、EVにおいても自動車の安全性・信頼性・走行性能を担保し、さらに量産するには既存の自動車メーカーが積み上げてきた高度なノウハウが不可欠。ホンハイが中心となって推進している「MIHコンソーシアム」は、SDVに不可欠のハードウェア/ソフトウェアを世界中の大小テック企業の知見を集めて開発・設計までは進めることができるが、問題は“クルマ”として先行するライバルたちに並び立ち、かつ品質を担保しながら量産を可能にする生産技術だ。 ホンハイは独ZF社と戦略的パートナーシップを締結しており、乗用車用シャシーシステムの共同開発を開始する。残るのは生産技術だ。この最後のピースを埋めるために白羽の矢が立てられたのが、日産自動車なのではないかと考える。 ホンハイは、すでに初のEVである「ラクスジェンN7」を発売しているがこれは台湾の裕隆汽車との共同開発車であり、販売も裕隆汽車が行っている。またコンセプトカーは毎年何台も発表しているが、現在のところ台湾国内でFOXTRONモデルC(生産は裕隆汽車)として発売されるにとどまっている。 ちなみに、裕隆汽車は1950年代から日産と技術提携していた関係だ(現在は解消)。さらに、現在、ホンハイのEV事業の最高戦略責任者(CSO)は関 潤(せき じゅん)氏である。かつて日産自動車の副最高執行責任者(副COO)を務めていたあの人物だ。そんなわけで、日産とホンハイは赤の他人ではない。外国に住む遠い親戚(?)くらいの関係だ。