「鉄の爪」が培養液に入れられてると思います【みうらじゅんの映画チラシ放談】『アイアンクロー』『インフィニティ・プール』
『インフィニティ・プール』
――2枚目のチラシは、「性癖に刺さる」という触れ込みのスリラー『インフィニティ・プール』です。 みうら 性癖に刺さるプールもの。面白いに決まってますね(笑)。 ――プールものってジャンルありましたっけ? みうら あるでしょう、そりゃ(笑)。 このコーナーで『はい、泳げません』って日本映画を取り上げたときにもお話しましたけど、僕は、泳げません。 でも、通っていた小学校で、卒業するまでできなきゃいいのにって思っていたプールが、6年生くらいのときにできちゃったんですよ。当然夏になると、水泳の授業です。 泳げないヤツらがプールサイドに集められて、どこから持ち出してくんのかよく分からなかったんですが、体育教師が碁石の入ったお椀みたいなやつをプールに持ってきて、白と黒の碁石をプールの底に撒くんですよ。泳げない生徒はそれを潜って取りに行かなくちゃならないんです。そういう屈辱レースをさせられたんです。 碁石を拾ってるときにプールサイドからの嘲笑の声が漏れ聞こえてくるんです。もうプールから上がりたくないなっていつも思ってたんですけど、コレもそんな映画だと思います。 このチラシの男の顔を見る限り、水に顔すらつけられない泳げないタイプだと思います。 ――確かに、泳げない人には見えますね。 みうら たぶんこの人も、アメリカの小学校で碁石拾いをやらされたクチですね。トラウマになってるんでしょう。コンプレックスに思っているんでしょう。大人になって、友だちとプール行く約束しちゃって、仕方なく自主練をするんだと思うんですよね。だって、好きな彼女もいますから。夜中にプールに忍びこむんです。 でも、そのプール、碁石拾いをやらされて溺れ死んだ霊が出るんです。上がろうとしたときに沈めに来ると思います。 チラシをよく見たら、監督・脚本に「クローネンバーグ」って書いてあるんですね。これはきっとデヴィッド・クローネンバーグの息子さんですよね。たぶん、泳げなかったコンプレックスがあるんだと思うんです。 ――「インフィニティ・プール」っていうのは、よく南国リゾートにある海とつながって見えるプールのことですよね。 みうら インフィニティは碁石っていう意味じゃなくて(笑)? ――「罪をつぐなうのは、もう一人の自分」って書いてありますね。 みうら ということは、碁石拾いをやらせた体育教師が主人公って可能性がありますね。 ――それが南国リゾートでですか? みうら 碁石拾いがちょっとしたブームとか(笑)? 取材・文:村山章 (C)2023 House Claw Rights LLC; Claw Film LLC; British Broadcasting Corporation. All Rights Reserved. (C) 2022 Infinity (FFP) Movie Canada Inc., Infinity Squared KFT, Cetiri Film d.o.o. All Rights Reserved. 『アイアンクロー』 上映中 『インフィニティ・プール』 上映中 ■プロフィールみうらじゅん 1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。