AI業界を目指すならUAEのアブダビへ…2つの専門大学も設立(海外)
アラブ首長国連邦(UAE)は、2031年までに人工知能(AI)の分野でリーダー的存在になるという目標を掲げている。 産油国として得たオイルマネーを活用して、新たな人材を招き入れ、新たな研究構想に資金を拠出する計画だ。 UAEのAI担当大臣は、今後のAI開発においては、「世界各地に中核的研究拠点(COE)やノードが点在する」状況になると見ている。 人工知能(AI)革命は、その起点となったアメリカのシリコンバレーをはるかに超えて拡大を続けている。 地中海の島国マルタの海岸から、パリの街角まで、世界各地でAIを活用したイノベーションのハブが形成されつつある。そんななか、中東におけるAI開発の主要拠点として頭角を現しつつあるのがアラブ首長国連邦(UAE)だ。 UAEは10月2日、シリコンバレーの歴史でも最も収益性が高いと期待される資金調達ラウンドに参加し、大いに話題をさらった。OpenAIとの間で合意に至った、66億ドル(約9780億円、1ドル=148円換算)の資金調達だ。 UAEはこのラウンドに、AIと半導体分野を専門とするテクノロジー投資会社MGXを通じて参画している。MGXは、UAEを構成する首長国のひとつであるアブダビの投資会社だ。 この動きは、2031年までにAIの分野で世界のリーダーになるという目標に向けたUAEの取り組みの一環だ。UAEはこの目標を、戦略的構想、公的機関の関与、研究への投資を通じて実現しようとしている。2023年には、UAEでも最も豊かな首長国であるアブダビが、同国初となるオープンソースの大規模言語モデル(LLM)「ファルコン(Falcon)」を立ち上げている。 UAEが2017年に、同国のAI担当大臣としてオマール・スルタン・アル・オラマ(Omar Sultan Al Olama)を任命したことも、UAEによるAIへの積極的関与の表れと言える。 アル・オラマ大臣は、UAEがAI大国のアメリカや中国との厳しい競争に直面していることを認識している。スタンフォード大学の「人間中心のAI研究所(HAI:Center for Human-Centered Artificial Intelligence)」によると、AI技術への民間企業の投資額は、2023年時点で米国が672億ドル(約9兆9456億円)、中国が78億ドル(約1兆1544億円)に達している。 このような状況から、競争よりも協力に力を入れていると、アル・オラマ大臣は語る。 「アメリカで開発されたAIが、あるいは、中国やUAEで開発されたAIが世界市場を独占するといった、ゼロサムゲームになるとは思えない」。アル・オラマ大臣は2024年4月、ワシントンD.C.にあるシンクタンク、アトランティック・カウンシルが主催したイベントで、そう発言した。 「今後について予測するなら、世界各地に中核的研究拠点(COE)やノードが点在する状況になると考えている。他よりも秀でている国や有力者、あるいは企業がいて、特定のユースケースや特定の領域があるところに、こうした拠点ができるだろう」 UAEの強みは明らかだ。 UAEは、世界でも有数の豊かな国であり、同国に埋蔵されている膨大な原油が、その富の主な源泉となっている。UAEは、世界の原油生産量で上位10カ国に入り、うち96%が、最も豊かなアブダビ首長国で生産されている(米商務省国際貿易局のデータによる)。 アブダビ首長国を支配する一族は、世界最大級の政府系ファンドを統括している。こうしたファンドの例としては、アブダビ投資庁や、MGXの創業パートナーであるムバダラ・インベストメントなどがある。 これらのファンドは、UAEが産油国として築いてきたオイルマネーを分散投資するために用いられてきたが、今ではさらに手を広げ、これらの資金が、新たなAI企業の投資にも活用されるようになっている。大手会計事務所PwCのリポートによると、2030年までにAIは、UAE経済に960億ドル(約14兆2100億円)の収益をもたらす可能性があるという。これは、同国GDP(国内総生産)の約13.6%にあたる数字だ。 しかし資本は、AIの展開を取り巻く問題の一部を占めるにすぎない。より大きな問題は、ペルシャ湾岸の小国であるUAEが、シリコンバレーに遅れずについていくために必須となる人材を引き寄せられるか、という点だ。 最近の展開を見ると、この点でも希望の兆しが見られる。UAEにおけるAI関連労働者の数は、2021年から2023年にかけての期間で4倍の12万人に増えた、とアル・オラマ大臣は前述のアトランティック・カウンシルのイベントで報告した。同国は2019年、IT関連専門職向けに「ゴールデンビザ」プログラムを開始し、AIの専門知識を持つ人材の入国を容易にする施策をとっている。 さらに、すでに自国にいる人材の有効活用にも乗り出している。5月には、首長国のひとつであるドバイが、世界最大規模のプロンプト・エンジニアリング構想を立ち上げた。この構想では、100万人の働き手に対して、今後3年間にアップスキリングを実施することを目標として掲げている。
Lakshmi Varanasi