天井覆う杉板やアート作品…リノベーション建築のデザイン事務所が手がけたJR観光列車「かんぱち・いちろく」で楽しむスロー旅
福岡、大分の山あいを走るJR久大線に4月、新観光列車の「かんぱち・いちろく」が登場した。「ゆふ高原線の風土を感じる」をコンセプトに博多-別府間を5時間弱かけてのんびりと走る旅を体験しようと、試乗会に参加した。 昇降口を入ると壁面がアート作品で彩られている 午前11時半前、別府発の列車が大分駅にやってきた。黒塗りの車体に金色のエンブレムが輝く。3両編成のうち1号車と3号車は、2020年の熊本豪雨で肥薩線が被災した影響で引退した「いさぶろう・しんぺい」を改造したものだ。列車名は久大線開通に尽力した大分県の実業家、麻生観八氏と衛藤一六氏に由来している。 車両デザインは、リノベーション建築を手がけるデザイン事務所「IFOO(イフー)」(鹿児島市)が初めて担当。JR九州の数々の列車を手がけた水戸岡鋭治さんからバトンタッチしたことが話題を呼んだ。 3号車に乗り込むと、壁一面に描かれた二つの大きな絵が目に飛び込んできた。湯煙をモチーフにしたカラフルな作品と、大分の滝など自然を描いた白黒の作品は、いずれも北九州市出身の山室淳平さんがこの列車のために描いたという。 乗降口や座席には絵画や彫刻など、福岡、大分ゆかりの10組のアート作品が24点飾られている。自分の座席をどんな作品が彩るのか、乗るたびに楽しめそうだ。 1号車は大分の火山や温泉をイメージした赤色のソファ席。3号車は筑後平野周辺をモチーフにした緑色のボックス席で、運転席後方の個室が畳敷きになっているのが目新しい。1号車、3号車ともに天井を覆う杉板が、モダンで明るい印象を与えていた。 2号車は共用のラウンジ専用車。樹齢約250年、長さ7・8メートルの一枚板のカウンターが存在感を放つ。ここでは沿線のお酒やソフトドリンク、スイーツを楽しめる。 由布院駅に向かう途中で昼食時間になった。乗車プランにはすべてお重形式の食事が含まれていて、福岡、大分の和洋の人気6店舗が交代で提供する。 この日はフレンチの「トモクローバー」(大分市)。日田杉と小石原焼で作った2段の重箱を開けると、八つに区切られた鮮やかな料理が登場した。季節野菜の前菜から低温調理の大分産牛、竹田産サフランと日田鮎のピラフなどメニューの順番通りに食べ進めると、コース気分を楽しめた。 列車が天ケ瀬駅(日田市)に到着すると、観光協会や旅館組合の方々が旗を振って出迎えてくれた。20年豪雨から復興途上の温泉街。おけに入れた温泉に紙を漬けると文字が浮かび上がる「湯みくじ」を販売していた関根妙子さん(64)は「天ケ瀬の復興のためにも、精いっぱいおもてなししたい」と笑顔を見せた。 日田駅を過ぎ、列車はしばらく筑後川と並行して走る。景色がだんだん開けてくると、筑後平野だ。次に停車したうきは駅では、地元の園児たちがダンスで歓迎してくれた。左に耳納連山を眺めながらさらに進むと、果樹畑は住宅地に変わり、久留米駅に到着。鹿児島本線経由で午後4時前、博多駅に着いた。 食にアート、おもてなしまで。木のぬくもりが印象的な「かんぱち・いちろく」は、沿線の魅力を詰め込んだスローな旅を楽しめる特急だった。 ■料金・運行日など 月、水、土曜日は博多から由布院・別府に向かう「かんぱち号」。火、金、日曜は別府発博多行きの「いちろく号」として運行する。料金(昼食代込み)は大人1万8000円(畳個室2万3000円)、6~12歳1万5000円(同1万9000円)。予約はJR九州のウェブサイトでのみ受け付ける。