闇が深い…上映禁止・お蔵入りの日本映画(1)。40年以上の闇…葬られた真相、巨大企業の逆鱗に触れた?
映画の舞台挨拶で、監督や演者が感謝の言葉を口にする場面を見たことがあるだろうか。彼らは、映画が公開されるのは当たり前ではないということを知っている。苦労やトラブルに見舞われながら作り上げるものなのだ。しかし、この世にはせっかく作られたにも関わらず、公開中止された映画がある。今回は残念ながらお蔵入りの憂き目を見た映画を紹介する。今回は第1回。(文・寺島武志)
『ガキ帝国 悪たれ戦争』(1981)
監督・企画・原案:井筒和幸 脚本:西岡琢也 キャスト:趙方豪、谷山衣枝、清水昭博、北野誠、島田紳助、松本竜介 【作品内容】 不良青年・辰則(北野誠)と良一(豪田遊)は、大阪のハンバーガーショップでバイトをしながら、喧嘩に明け暮れる荒れた日々を送っている。そんなある日、良一は辰則に連れられたソープランドでトラブルを起こし、用心棒に袋叩きにされる。それをきっかけに、無軌道な2人の青年の人生は思わぬ方向に進んでいく...。 漫才コンビ・紳助竜介を主演に迎えた青春映画の傑作『ガキ帝国』と同年に公開される予定であった井筒和幸監督作品。『ガキ帝国』とタイトルは同じだが、登場人物は一新しており、正式な続編ではない。 【注目ポイント】 『パッチギ!』(2005)、『ヒーローショー』(2010)など、数々の傑作を手がけてきた映画監督の井筒和幸。そんな彼は、ピンク映画で実績を積み、初めて手掛けた一般公開作『ガキ帝国』で、日本映画監督協会新人奨励賞を受賞するなど、高い評価を獲得。そのわずか2か月後に“続編”として製作されたのが本作だ。 東映に加え、初めて映画製作に進出した徳間書店も製作に加わっていることからわかる通り、興行的な成功を期待されていたことがうかがえる。不良少年たちの群像劇を描いている本作だが、なぜ、公開中止に至ったのか。 作品を鑑賞することができない以上、真相を知るには当事者の証言に頼るしかないが、主人公の不良少年・良一(趙方豪)がアルバイト先のモスバーガーで、「この店の肉はネコの肉や」と吐き捨てながら、窓を叩き割るというシーンがあり、同企業から難色を示された、という話があたかも都市伝説のように蔓延している。 しかし、後になって、脚本家や井筒監督は「そんなセリフは最初からなかった」と証言。趙方豪のアドリブだったとしても、彼はすでに鬼籍に入っており、真相は闇に葬られたままだ。 こうした事実を受け、日本ペンクラブでは「いったいなぜ、『ガキ帝国 悪たれ戦争』は封印されたのか」「公開する手だてはあるのか」といったことを再検証し、日本シナリオ作家協会でも、上映許可を求める署名活動を行っている。 映画脚本専門誌・月刊シナリオが報じた記事によると、『ガキ帝国 悪たれ戦争』の公開中止に至るまでには、株式会社モスフードサービス側の「モスのイメージを損ねる」、「うちの会社にメリットはあるのか」と主張したことは事実のようだ。 しかし、本作に限らず映画というものは、思想や感情をフィクションとして表現した著作物に過ぎず、一企業や産業を発展させるべく作られたものではない。仮に、モス側が問題視するようなシーンがあったとして、それが原因で会社イメージが損なわれる恐れがあるのならば、該当のシーンだけ差し替えを求めればいいだけの話だろう。 それがなぜ、問題が肥大化し、丸ごとお蔵入りという結末を迎えたのか。真相は藪の中だが、フィルムが現存することは間違いなく、いつまでも暗い倉庫で眠らせておくのはもったいない。いつの日か公開されることを願うばかりだ。
寺島武志