自宅待機中のJリーガーは今何を…浦和レッズCB岩波拓也は14年前の伝説ゲーム映像に学ぶ
そして、現時点では2008シーズンの数字がピークになっている。レッズの一員になった2018シーズン以降で、岩波は一度も6万人を超えた埼玉スタジアムでのリーグ戦を経験していない。 リーグ戦でJ1残留争いを強いられるなど14位に甘んじ、4シーズンぶりとなる無冠に終わった昨シーズンの総観客数は58万1135人、1試合平均は3万4184人だった。ともにJ1ではナンバーワンを維持しながらも、2008シーズンの数字からは大きく落ち込んでいる。 もっとも、3度目のファイナリストとなった昨年11月24日のACL決勝第2戦では、初戦で苦杯をなめさせられていたアル・ヒラル(サウジアラビア)に0-2で敗れて準優勝に終わったものの、埼玉スタジアムは逆転優勝を信じた5万8109人のファンやサポーターで埋め尽くされた。 自身も右ストッパーとして先発フル出場し、悔しさと捲土重来の思いを胸中に刻んだ昨秋の経験。新型コロナウイルス禍による中断期間に視聴した、自分がヴィッセルのジュニアユースに入団する前年に行われたガンバ戦で得た鳥肌が立つような感動が、岩波のなかで思いを新たにさせた。 「ああいう優勝争いの舞台こそが、レッズのファン・サポーターのみなさんが求めている場所だと思いました。そして、あの舞台に行けば、あれだけのファン・サポーターの声援に後押しされる。僕もレッズの一員として(後押しを)受けてみたいと思いました」 昔のことを研究して、そのなかから新しい知識や道理を見つけ出す――を意味することわざに「温故知新」がある。図らずも視聴したガンバとの頂上決戦は、2006シーズンを最後に遠ざかっている、国内で最も価値のあるJ1で覇権を争う姿こそがレッズにとっての道理、つまりは「物事の正しい筋道」だと身長186cm体重72kgのサイズに強さ、そして足元の技術を同居させる岩波に再認識させた。 予断を許さない状況がこれからも続くと予想されるなかで、Jリーグ側はこの先に公式戦を再開できたとしても、無観客試合での開催を視野に入れ始めている。経験したことのない光景を思い浮かべた岩波は「個人的な意見になる」と前置きした上で、コロナ後へ切実な思いをはせた。 「日本で一番ファン・サポーターが入る状況で戦えないのは、かなり不利になるのではないかと思います。ただ、ここまで新型コロナウイルス(の感染)が広がって、これだけプレーできない時間が続いたなかでは、無観客での試合を介して見てくれるファン・サポーターへ元気を与えるのも、ひとつの案なのではないかと思うようになりました。自分自身、一人の選手として、あらためてサッカーに生かされている、と強く感じています」 ファン・サポーターへの恩返しとしてまずは勝利と躍動感あふれる姿を届け、新型コロナウイルスが終息したときには満を持して埼玉スタジアムで熱き思いを融合させる。対戦相手を畏怖させた光景を必ず蘇らせる決意を胸中に刻みながら、岩波は自宅待機のなかで心に続いて身体も作りあげていく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)