「MV=PT」を知らない社会人はガチでヤバい
● 異次元緩和の想定とは違う コストプッシュ型のインフレが進行 一方、消費者物価の上昇は21年の後半から始まった。原材料価格の上昇と円安による輸入価格の上昇が要因だ。消費者物価上昇率のピークは23年1月の前年同月比4.3%で、それから上昇幅は縮小し、23年11月以降は2%前後で推移している。これは異次元緩和策の想定とは違う、輸入物価の上昇を要因とするコストプッシュ型のインフレだ。 決して需要が増えて物価が上昇するデマンドプル・インフレとは言えないが、日銀の異次元緩和のターゲットである2%上昇には達した。そこで、23年4月に就任した植田和男日銀総裁は、異次元緩和から脱しようとしていたのだろう。 16年9月の「長短金利操作付き緩和策」については、日銀は23年10月31日に長期金利の上限1%をある程度超えることを認めることにした。それまでは上限1%の利回りまで上昇すると国債を無制限で買っていたが、それをやめて上限を「1%めど」とあいまいにして、国債購入額をどんどん減らしている。長期金利は24年6月現在、プラス1%を超えて推移している。 そして24年3月19日、短期金利(日銀当座預金の超過準備の金利)をマイナス0.10%からプラス0.10%へ引き上げ、マイナス金利から脱した。 日銀は異次元緩和の終了段階とし、方向としては金融引き締めへ向かうことになるのだろう。反対に米国やユーロは高金利の現状から緩和の方向へ向かっている。米国経済は予想以上に強く、物価は高く、雇用情勢も良い。したがって、年内に金利引き下げを行なうと宣言しているものの、回数は減り、先送りしているが、方向は緩和だ。景気がやや弱いユーロは6月6日に短期金利を0.25%引き下げて緩和策に入った。 日本だけ金融引き締め方向であれば、円高、株安、債券安ということなるが、どうなることやら…。GDP成長率はこの4~6月期はプラスに転じるといわれているが、1~3月期までマイナスを続けている。特にGDPの半分以上を占める個人消費は、1年間ずっとマイナス成長だった。だから実は、景気は下降局面にあったといえる。すぐに金融政策を引き締めに転じる環境ではない。日銀としては金融緩和を続けるが、異次元からは脱して正常に戻すということなのか。 クラシカルな貨幣数量説に立脚した10年間の異次元緩和策は、経済史の大きな研究テーマになるだろう。もしかすると、世界史の16世紀価格革命に匹敵するかもしれない。
坪井賢一