男性の立場から観た『虎に翼』のフェミニズム 染み付いた“男らしさ”からいかに脱却するか
学びの多かった寅子(伊藤沙莉)と花江(森田望智)の関係性
現代に必要なフェミニズムをテーマとして貪欲に盛り込み、なおかつ人間ドラマとしての深みをもたせた作品として提示した点において、本作が果たした役割は非常に大きいと感じている。『虎に翼』で描かれたフェミニズムや倫理は、これから作られるドラマの基準になっていくはずで、今後の作品はその基準を踏まえた上で作られていくはずなのだ。私はそれが嬉しい。また『虎に翼』は人と人がつながっていく物語でもある。一度は離ればなれになった女子部の学友たちが、長い年月を経てようやく再会し、お互いの現在を祝うくだりは本当にすばらしかった。かつての仲間がふたたびつながり、お互いを支え合う姿は、ただそれだけでしあわせな気持ちにさせてくれる。集合場所はもちろん、あの甘味処である。そこには美しいシスターフッドがあった。このようなドラマが毎朝NHKで放送されているという事実が誇らしく、終わってしまうのが惜しいと感じさせてくれる作品であった。 なお、以降は余談になってしまうが、劇中で印象に残る登場人物を3人選び、ランキング形式で発表したいと思う。 3位 轟(戸塚純貴) 本作のファンなら、誰もが応援したくなる率直なキャラクターが轟だ。当初は絵に描いたような男尊女卑の思想を持っていたが、彼には柔軟性があり、「男らしさ」の意味を自分のなかで更新していき、最終的には寛容で愛に満ちた人間へと成長していく。その変化がみごとなのだ。私は彼の柔軟さや、自分の考えに固執せず、変化していける人間性をすばらしいと感じた。個人的には、穂高と対(つい)になる人物で、どれだけ自分を変化させていけるかで対照的であると感じた。なかなか自分を変えられない穂高。私は轟のように、みずからを更新していく人間になりたいと思いながら観ていた。登場するだけで場がぱっと明るくなるような雰囲気もよかった。 2位 花江(森田望智) 寅子と花江の関係性は、男性の私から見てとても学びが多い。寅子は能力が高いため、勉強やものごとの適切な判断をできるのが当たり前で、それができない状態がうまく想像できない。そのために周囲を萎縮させてしまう傾向がある。そうした機微を敏感に察知するのが花江のすぐれた性格である。花江がよく口にする「わかってない」という指摘にはいつもはっとさせられたし、彼女が家族や周囲の人物の隠された本心を瞬時につかみとるセンスに学ぶところは多かった。自分に足りないのは、花江のような繊細さだと思いながら勉強させてもらったキャラクターだった。また、寅子の娘である優未(毎田暖乃/川床明日香)が、花江の繊細さを受け継ぎ、子どもながらに寅子以上の感性で周囲の感情の揺れを察知しているのも印象ぶかかった。 1位 よね(土居志央梨) 現状に対してつねに怒り、不穏な空気を発し続けるよね。人との衝突などまったく意に介さない彼女だが、ひとたび登場すればどうしても注目してしまう。よねがいればなにかが起こる。明律大学女子部で最初に彼女が登場したときは、ずいぶん協調性のない人だと思ったものだが、いなければいないでつまらないし、やはりよねに登場してほしいと思い、いきなり怒って場の雰囲気をぐちゃぐちゃにしてほしいと望むようになってしまった。『虎に翼』というドラマの負けん気、たたかう気持ちを象徴するような人物であり、脚本の吉田氏は彼女に特別な感情を込めているようにも感じた。彼女が胸に弁護士バッジをつけているのを見たとき、本当によかったと思った。一方で、轟にかけた「惚れてたんだろ、花岡に」というやさしい言葉にも胸を打たれた。よねと轟が法律事務所を始める、というくだりは、女子部以降なかった物語のきらめきがようやく戻ってきたようで、嬉しい展開であった。きつい言葉への反発もありつつ、気がつけば応援してしまっている、そんな人物がよねなのだ。
伊藤聡