世界でEVへの逆風が強まる
各国でEV支援策を縮小する動き
脱炭素政策の柱の一つとして各国が推し進めてきた電気自動車(EV)の普及に、逆風が吹き始めている。バイデン政権は5月14日に、中国製EVに、現在の4倍に当たる100%の制裁関税を課すと発表した(コラム「米国が中国製EVへの関税率を4倍に引き上げ100%へ」、2024年5月14日)。 この関税引き上げは、不公正貿易とみなす相手国への一方的な制裁を認めた米通商法301条に基づく措置となる。ただし、中国製EVの米国での販売実績は現時点ではほとんどなく、そうした下で米通商法301条を発動するのは、根拠を欠いていると言えるのではないか。これは、国内での対中強硬論の高まりに配慮した、大統領選挙対策の色彩が強いだろう。 いずれにせよ、この追加関税導入は、中国製EV、あるいはEV全体の米国内での将来の普及に大きな障害となる。欧州連合(EU)も中国製EVに対する関税引き上げを検討しており、導入すれば欧州でもEV普及全体に逆風となる。 他方、各国で、EVへの補助金など支援策を縮小する動きが出ている。EV支援策が、財政負担を高めているためだ。ドイツは、昨年12月にEV補助金を打ち切った。 グリーンエネルギーへの投資の大半は、民間資金では賄いきれていない。コンサルティング大手のマッキンゼーの分析によると、世界で二酸化炭素排出量の削減目標を達成するために2030年までに必要な投資額は55兆ドル(約8,570兆円)となるが、そのうち政府による補助金がなくても利益が出る投資は4分の1に過ぎないという。 こうした点から、EVに対する政府の補助金などの支援策は、「環境コスト」を下げることには貢献する一方で、「財政コスト」を高めてしまう。さらに、割高で収益性が低いものに財政資金を投入していることから、生産性の低下、成長率の低下にもつながりかねない。つまり「経済コスト」を高めてしまっているのである。 イノベーションを通じてEVの価格が大きく低下し、政府の補助が必要なくなるまで、この「経済コスト」の問題は続くことになる。