子どもを利用してSNSで稼ぐ親にストップ、16歳未満の子どもにも報酬得る権利 米
子どものインフルエンサーを保護する画期的な州法がついに米イリノイ州で施行された。今後親のソーシャルメディアのコンテンツに登場した16歳未満の子どもには、報酬が支払われることになる。 【動画を見る】「額にタトゥー」の母親兼インフルエンサー 7月1日、イリノイ州で改正児童労働法が正式に施行された。これにより16歳未満の子どもは、成人保護者がVlogで「報酬と引き換えにオンライン・プラットフォームでシェアしたコンテンツ」の収益の一部を受け取ることが認められる。 イリノイ州のJ・B・プリツカー州知事が2023年8月23日に署名した改正法によると、子どもが30%映っているコンテンツを親または保護者がソーシャルメディアに30日以上投稿した場合、子どもには金銭的報酬を得る権利が与えられる。保護者は収益の一部を信託基金に預けることが義務付けられ、子どもは満18歳を迎えると同時に受け取ることができる。また州知事室によると、保護者が子どもの労働に十分な報酬を払わなかった場合には、子どもが訴訟を起こすことも可能だ。 NPO団体「Family Online Safety Institute(FOSI)」のスティーヴン・バルカムCEOはイリノイ州の法律について、インターネット上の子どもの存在やプライバシー、金銭的搾取について広く議論を呼んだ点で「大きな1歩だ」と述べた。「州議会で可決されて嬉しく思います」と同氏。「連邦法までは期待していませんが、他の州でも議論がなされていることは大変心強いです」。 新法の発端となったのは16歳のシュリヤ・ナラモスさんだ。ファミリーVlogが未成年の子どもに与える影響を懸念したナラモスさんは州上院のデヴィッド・ケーラー上院議員に法案の原案を提出し、ケーラー議員の尽力で法案可決にこぎつけた。「現在、デジタル新時代で私たちは互いにつながる数々のチャンスに恵まれたが、同時に以前には存在しなかった法的問題も浮上している」と、ケーラー議員は昨年8月の声明で述べた。「我々は子どもたちと協力し、彼らが直面している問題に目を向け、さらなる害が及ぶ前に率先して問題に対処しなくてはならない」。 今回の法律は、子育てインフルエンサーがソーシャルメディアのコンテンツに子どもを登場させて稼ぐ、いわゆる「ファミリーVlog」という一大産業に一石を投じた。この業界への風当たりは強く、子どもが十分理解した上でソーシャルメディアへの顔出しを同意するのは年齢的に難しく、親が子どもの画像を投稿して金を稼ぐのは児童搾取と同じだ、という批判が殺到していた。ファミリーVlogチャンネルの中には、数十万ドル相当の広告収入が得られる高収入のチャンネルも多い。 現時点で、メインストリームのエンターテインメント業界で児童を金銭的搾取から保護する法律はいくつか施行されている。たとえば有名子役のジャッキー・クーガンから命名されたクーガン法では、子役の保護者は出演料の一部を信託に預けることが義務付けられている。だが、こうした法律はテクノロジーの進化や巨大なちびっこインフルエンサー業界の台頭には追い付いていない状態だ。サンディエゴ法律大学院・児童保護研究所のエド・ハワード上級顧問も、以前ローリングストーン誌のインタビューでこう語っていた。 「インターネットにコンテンツを投稿している子どもたちには、子役が従来のメディアで同じようなことをした場合に保証されている金銭的搾取保護措置に匹敵するようなものがありません」とハワード氏は語った。 こうした法律が施行されたのはイリノイ州が全米初だが、メリーランド州、カリフォルニア州、ウィスコンシン州などでも同様の州法可決が検討されている。メリーランド州では、インターネット上からコンテンツの削除を希望する子どもに「忘れられる権利」を与える法案が提起され、今年上旬に議会委員会の討議にかけられた(イリノイ州法にはこうした条項は含まれていない)。 今後さらに法案が広まり、未成年者に対する金銭的報酬の保証に加えてプライバシー問題への対応がなされてほしい、とバルカン氏は期待している。「イリノイ州の出来事には我々も歓迎していますが、まだ道半ばです」と同氏は言う。「ポイントは2つあります。ひとつは、何年も親の言うなりになってきた子どもにある程度の金銭的補償を認めること。ですがそれとは別に、子どものプライバシーの問題もあると思います」。こうした法案をきっかけに、「11歳、14歳、16歳の我が子が絶えず世間の目にさらされるのはどういうことか、真剣な話し合い」が家族の間で行われて欲しいと同氏は期待を寄せている。
EJ Dickson