日本フェミニスト経済学会大会 男性中心の資本主義による「女性の資源化」に警鐘
「サーモン」は鮭ではない
湯澤さんは産業革命期に米国と日本で展開された、女性たちが労働環境や衣食住の改善を求めた社会活動と、その思想的背景として誕生した「ヒューマン・エコロジー」を紹介。これは、経済活動による環境変化に着目し、水質検査基準の確立、学校給食制度など、家庭生活・都市生活の新たな方向を示すものとなった概念である。 会場に衝撃を与えたのは福永さんの「あわいものから見る世界:サーモンとエコフェミニズムの交わるところ」だ。「あわい」は古語の「合ふ」からくる言葉で、ここでは自然と人工の境界が曖昧になってしまった生物を指す。福永さんは「サーモン」という名称で販売されている食品が、今や「鮭」ではなくなっていると指摘する。 安定した食味、色、脂肪を求める消費者に応えて「おいしいサーモン」が生み出されている。求められる味、画一性、サイズ調整などを可能にするバイオ技術は、成熟しない不妊のメスだけを増やす「全雌3倍体」や、「生むこと」の商品化である「ちがう種を孕むニジマス」など、人間以外の生物に多大な負担を強いている。そしてそれを食べることで私たちは自分の身体に不自然なものを取り込んでいるのだ。 福永さんはこの状況をもたらしてきたグローバルフードシステムのリスクと限界を指摘し、「新しい食の様式」を模索する「人間らしさとあわいの倫理」を示した。 労働とジェンダー研究を専門とする伊田久美子さん(大阪公立大学)は福永さんの報告に「資本主義はここまできたか。人間以外も含めて女性の資源化が進行しているということをあらためて感じた」とコメント。岩島さんはセッションの最後に「人間と環境のウェルビーイングという視点によって、伝統的経済学が前提としてきた人間の概念を捉え直す内容となった」と成果を語った。 (注)ウェルビーイング(Well-being)は身体的、精神的、経済的、社会的に良好な状態を指す概念。「幸福」と翻訳されることも多い。
古川晶子・ライター