ヒット前は貯金9000円 『カメ止め』監督、最新作で人気俳優と初タッグに7年かかったワケ
内野聖陽は「妥協しない」、岡田将生は「誠実」
メインキャストの内野聖陽と岡田将生の魅力は何か。 「内野さんは妥協しない方です。演じるということに誠実な役者さんという印象でしたが、実際もそのまま。その一方で、柔軟でもあるんです。今回の映画は、エンターテイメントですし、ジャンル映画でもあるから、映画のウソとして、こういうシーンにしようとも言ってくれる。そのバランス感覚が素晴らしい。岡田さんも誠実な方でした。お2人とも、納得しないとできないぞっていう真摯な姿勢でやってくれました」 撮影の中盤には上田監督がコロナに感染してしまい、数日間リモート演出をしなければいけないというハプニングもあった。 「実は7月20日から7月末までドラマ版を撮って、8月1日から8月末まで映画版を撮るというスケジュールだったんです。それが8月10日ぐらいにコロナになってしまいました。本当に疲れ切って、免疫力も下がっていたんだと思います。コロナになったのは僕だけでしたから。スケジュール的に止められないので、『リモート演出いけますか』と言われたんです」 まさに、「カメラを止めるな!」状態だった。上田監督は自宅で隔離生活を送った上で、iPad2台を駆使して、リモート演出した。だが、そこで得られたものは大きかったという。 「今まではカメラの前に立って演出することが多く、美術セットの位置を直したりするので、スタッフからは『監督がそんなことをやらなくていいですよ』と言われたりしました(笑)。以降は、俯瞰して見ることができたと思います」 こうした苦労を重ねて完成した作品には手応えも感じている。 「試写会後に握手を求めてきてくれたり、なかなか会場から帰らない方もいて、少し安心しています。僕はハリウッド映画が好きで、『スティング』や『オーシャンズ11』などのテーストが好きで、日本映画っぽくない感じになったかな、と。それが映画ファンにどう届くのかはドキドキしていますが……」 上田監督はインデペンデント映画界の星と言えるだろう。『カメ止め』の前と後は、どう生活は変化したのだろうか。 「生活のクオリティーはだいぶ変わりました。『カメ止め』が公開された頃は貯金が9000円しかなく、妻(映画監督のふくだみゆき)とは『どうやって生きるのよ』と話したりしていました。その時は都心だと家賃が高いので、府中に住んでいましたが、今はもっと都心の方に住んでいます。ただ、僕は今、自分の会社の社員なんで、どれだけ頑張っても、給料は変わらないんですけどね(笑)」 今後については、オリジナルを中心にアクション、SFといったエンタメで勝負したいという。 「今、書いているのは『日本沈没』のようなリアルシュミレーションSFで、プロの俳優さんにお願いするものになると思います。一方、インディーズの人たちを引き上げていきたい気持ちもあるので、両方やっていきたいです」 上田監督はインディーズ映画界にも目を配らせながら、さらなる高みを目指す。 □上田慎一郎(うえだ・しんいちろう)1984年4月7日、滋賀県出まれ。2009年に映画製作団体を結成。10本以上を監督し、国内外の映画祭で20のグランプリを含む46冠を獲得する。18年に初の劇場用長編『カメラを止めるな!』が大ヒットを記録。主な作品に『イソップの思うツボ』(共同監督作)、『スペシャルアクターズ』(19年)、『100日間生きたワニ』(21年)、『DIVOC-12』(21年)、『ポプラン』(22年)など。
平辻哲也