「こんなにも愛してくれた人がいた」孤独死した67歳の弟は寂しい人生? 姉がたどり着いた意外な真実
人嫌いで変わり者の弟が2021年、故郷の関西を遠く離れた札幌市で孤独死した。67歳だった。知らせを受けた大阪に住む姉は想像した。「きっと寂しい晩年を送っていたのだろう」。しかし、飛行機に乗って弟宅の整理に訪れると、ある女性の存在が浮かび上がってきた。「ひょっとして幸福な人生を送ったのかもしれない」。そう思い直した姉は、弟と女性の影を追い始めた。(共同通信=武田惇志) 遺族と対話、感謝を胸に 孤独死見つめる特殊清掃員
▽突然の連絡 2021年6月、大阪府八尾市で事務所を営む司法書士の増田正子さん(51)は、旧知の女性から「弟と連絡が取れなくなった」とLINEでメッセージを受信した。 送り主は、尼崎市出身で八尾市在住の主婦、永江(旧姓、川崎)洋子さん(73)。洋子さんには、3歳年下で気むずかしい性格の弟、雅樹さんがいた。 雅樹さんは京都府の私立大学を卒業後、華道の流派団体に職員として就職。40代半ばで実家を出て神戸市へ転居したが、それから次第に音信不通となり、行方が分からなくなった。 弟はかんしゃく持ちで、子どものころから家族の誰ともそりが合わなかった。小中学校の授業参観では「僕の方を見るな」と母親を避けた。洋子さんとも口喧嘩をし、1年ほど口を利かなくなったことも。それでも、洋子さんにだけは心を開いているように見えた。大人になった後、洋子さんの幼い娘を喫茶店に連れて行き、パフェを何個も食べさせてくれたという。
2014年に父親が亡くなると、洋子さんは司法書士の増田さんに相続の手続きを依頼した。その際に弟の居場所を調査してもらうと、故郷の関西を遠く離れた札幌市に住んでいた。 姉弟は十数年ぶりに大阪で再会。ただ、久しぶりに会っても性格は相変わらず。父親の死にも無感動な様子だった。北海道にいた理由も分からない。それでも故郷が恋しくなったのか、雅樹さんは2019年になって大阪に一軒家を購入する計画を立て、こんなことを言った。 「年をとって雪おろしとかも大変やから北海道を出て、姉さんの近くに行く」 雅樹さんは不動産屋とやりとりを続け、最終的に契約にこぎ着けたという。姉弟はその後も断続的にやりとりを続けたが、2021年春頃、弟が急に携帯電話に出なくなった。 ▽「寂しい人生やったんやろなあ」 洋子さんから連絡を受けた増田さんは「これはただ事ではない」と直感した。雅樹さんが糖尿病を患っていたためだ。