「半年に1回しか売れない本」が山積みになっている…日本の書店がアマゾンに侵食された根本原因
■紀伊國屋書店、TSUTAYA、日販の「大連合」 紀伊國屋書店とTSUTAYA(CCC:カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社の店舗ブランド名がTSUTAYA)と日販が立ち上げた株式会社ブックセラーズ&カンパニーについて簡単に説明します。従来の出版社→取次→書店の商流を排して出版社と書店が直接取引して、日販は物流と資金回収のみを行うという従来とは全く異なる新たなビジネスモデルです。 参加書店は1000店舗を超える見込みで、出版社とは、新たな契約を結び仕入条件を設定することになります。当然ながら、新会社は粗利を増やすことが大きな目的なので、出版社にもメリットがあるように返品減少モデルや買い取りモデルを出版社に提示しています。 この会社には、紀伊國屋書店、TSUTAYAのほかに日販傘下の書店であるリブロ・積文館書店・いまじん白揚も参加し、その販売占有は出版界で20%ほどにはなるそうです。この新会社への出版社の対応判断が出版界の将来を左右することは間違いないでしょう。 この会社はこんなミッションが掲げられています。 ---------- ~街に書店が在り続け、より多くの人々が読書習慣を育み、本を通じた「知」や「文化」との接点を持ち続ける豊かな未来を、書店自らの手で切り拓いていく。~ ---------- 具体的には、以下の3点があります。ブックセラーズ&カンパニーには日販と取引のある書店ならばどこでも参加できる。新会社は参加書店と出版社との仕入交渉窓口となる。直接取引契約が成立した出版社とは、様々な情報共有を行い、売り伸ばしや返品抑制を図る。 ■出版社には利益再配分への取り組みが求められている 紀伊國屋書店の高井昌史会長の発言のように「書店粗利30%が実現したら、多くの書店が参画する」可能性も高いとも考えられます。日本の書店を存続させるために出版社には、利益再配分への取り組み姿勢が求められていることだけは間違いありませんから、私はこの取り組みが旧態依然たる出版流通に対するアンチテーゼとして発展することは大いに意味があると思っています。 ただし、現時点で不明な点があります。 日販はコンビニとの取引を大幅に縮小し、現在の雑誌流通の仕組みに乗っかった出版流通から、今後は新たな独自の書籍流通網の整備が求められますが、いかにしていつ頃までにこの書籍流通網を構築して、この事業の負託に応えるのか? 今後、出版社は、この会社で取り扱いマージン制(扱う書籍すべてにマージンを受け取る)に移行すると思われる日販と、卸としての出版販売会社(売れたものだけをマージンの対象にする)であり続けるトーハンとで異なる対応が求められるでしょう。 私には日販が、ブックセラーズ&カンパニー事業に社運を賭けているようにも思えます。これからの出版界がトーハン一強になる未来と、日販とトーハンが競い合う未来のどちらがその健全な発展に寄与するかを出版社や日販取引の書店関係者が真剣に考え、判断しなければならない事態に迫られていることだけは間違いないでしょう。 ---------- 小島 俊一(こじま・しゅんいち) 中小企業診断士/元気ファクトリー代表取締役 出版取次の株式会社トーハンの営業部長、情報システム部長、執行役員九州支社長などを経て、経営不振に陥っていた愛媛県松山市の明屋(はるや)書店に出向し代表取締役就任。それまで5期連続で赤字だった同書店を独自の手法で従業員のモチベーションを大幅に向上させ、正社員を一人もリストラせずに2年半後には業績をV字回復させる。著作に『崖っぷち社員たちの逆襲』(WAVE出版)、『会社を潰すな!』(PHP文庫)がある。 ----------
中小企業診断士/元気ファクトリー代表取締役 小島 俊一