藤井八冠が突き抜ける AI解析「一致率」「平均損失」 将棋AIはどこまで進化するか① 谷合廣紀・プロ四段(上)
将棋AIは序盤研究や振り返りに使われる
2024年はビジネス現場で生成AI(人工知能)活用がますます加速しそうだ。日本でいち早く日常活動にAIを取り込んだのが将棋界。2017年にシンギュラリティー(AIが人間の能力を超える)を経験した将棋界は、ビジネス社会の半歩先を歩む「AI先進国」といえる。その先頭を走っているのが藤井聡太八冠だ。2024年に将棋AIはどこまで進化するか。プロ棋士として公式対局で戦う一方、自身で将棋AIの開発も行う谷合廣紀四段に読み解いてもらった。 将棋界では藤井八冠をはじめ、ほとんどの棋士が将棋 AI を勉強道具として日常的に使っている。その用途は多岐にわたるが、主に序盤の研究であったり、自身の将棋の振り返りに使われたりすることが多いだろう。 序盤は再現性が高いため、事前準備に時間をかけただけ報われるチャンスが増える。無数に広がる序盤作戦を網羅的に調べ上げて理解することは、途方もない時間が必要になるが、もし事前準備していた局面が対局で現れたら優位を奪えるのだ。それが結果として年間勝率にたった数%しかつながらなかったとしても、少しでもいい将棋を指すために欠かせない棋士の勉強作業といえる。 そして、序盤研究と同じくらい重要なのは振り返りのプロセスだ。これにより棋士は自身の将棋を客観的に評価でき、正確なフィードバックを得ることができる。この作業は棋力向上に非常に有益であり、AI がなかった時代に比べると現代の勉強環境ははるかに恵まれていると思う。
将棋AIのトレンドは「定跡作成」
将棋AIは2017年に「Ponanza(ポナンザ)」が当時の佐藤天彦名人(現九段)に勝ったことで、事実上AIが人間を超えた世界である。人間の実力を超えてからも将棋AIは実力を伸ばし続けており、現在の最新の将棋AIはレーティングで考えると、Ponanzaに99%以上の勝率で勝つと推測される。とはいえ、ここ2、3年に将棋AI のアルゴリズムに大幅な発展はなく、強くなった要因は主に細かなパラメーターの調整、自己対局による高品質な教師データの生成、ハードウエアの向上によるものである。それらのレーティング上昇も最近は鈍化している傾向にある。 そのような背景もあり、過去1年間の将棋AIはAIそのものの実力の向上よりも、定跡作成にトレンドが向いている。というのも将棋AIは、ある程度の有利を得たらそこから逆転負けを喫することはめったにないため、序盤でいかにリードを奪うかが大事になってきているからだ。開発者は貴重な計算リソースを、その序盤を強化するために事前に計算可能な定跡という形で使っているのだ。