香川が迎えるサッカー人生最大の危機
長谷部からのエール
日本でプロとして第一歩を踏み出したセレッソ大阪でも、2010年7月に移籍したドルトムントでも、すぐにレギュラーの座を獲得してきた。順風満帆だったサッカー人生の中でおそらくは未曾有の逆風となるが、香川は真っ向から立ち向かう道を選択したことになる。 ヴォルフスブルクで何度もサブやベンチ外の冷遇を味わわされ、その度にポジションを奪いかえしてきた日本代表キャプテンのMF長谷部誠は、自らの経験を踏まえてエールを送る。 「ヴォルフスブルクとマンチェスター・ユナイテッドとでは、試合に出られないというレベルがちょっと違いますけど、彼(香川)はリーグ戦が始まってまだ3試合。これを切り拓いていくのは彼自身。自分の力で乗り越えていくでしょうね」 今シーズンの長谷部自身もヴォルフスブルクで出場機会を失い、ニュルンベルクへの移籍が決まったばかりだが、たとえ残留したとしても「奪い返す自信はあった。それで6年間やってきたので」と力を込める。 何度も荒波にのみこまれても屈しない強い気持ち。自身の可能性を信じ抜く信念。これが大事だと、メディアを通じて香川に伝えたいのだろう。 今後は連覇を目指すプレミアリーグはもちろん、覇権奪回を義務づけられたチャンピオンズリーグでも出番は巡ってこないだろう。チャンスがあるとしたらイングランド・リーグカップか、前線で故障か出場停止の選手が出た場合となる。 そこで香川だけが持つゴール前の危険なエリアへすり抜けるように侵入していくスピード、相手ペナルティーエリア内における創造性が、フィジカルコンタクトと守備力の弱さを補ってあまりあると新監督に認めさせるしかない。 いつ訪れるか分からないチャンスに備えて身体のコンディションを常にピークに保ち、心の準備を整えておくことは至難の業だ。しかし、それを成し遂げなければおのずと道は閉ざされ、試合勘の低下は香川が初めて臨む大舞台、来年6月のW杯ブラジル大会にも大きな影響を及ぼしてくる。 「開幕から出ていないけど、僕のやることは変わらないですし、新監督のもとでアピールするだけなので。(ユナイテッドに)帰ってから弾みがつくように、今度の試合をいい形で終えられれば」 日の丸を背負っている以上、所属チームでの問題を代表チームに引きずるわけにはいかない。ましてや、6日のグアテマラ代表戦はセレッソ時代に慣れ親しんだ長居スタジアムで行われる。捲土重来へのスタートを切るにはまたとない舞台だ。 「コンフェデとウルグアイに負けて、攻守において課題が出ている。それにトライして、しっかりと自分たちのサッカーをしていきたい」 香川はミックスゾーンでわずか2分ほどの質疑応答に応じると、「じゃあ、お疲れさま」と言い残して足早に帰りのバスへと乗り込んでいった。複雑な心境を封印し、決意を新たにするかのように。 (文責・藤江直人/論スポ)