アメリカの「UFO」は西部地域で多く目撃? 真面目な研究から見えてきたもの
3氏は、12万件の目撃情報を郡単位の行政区画で分類しました。そして、雲や森林の量、公害の程度、空港や軍事施設の位置など、UFOの目撃に影響を与える可能性のある様々な因子と組み合わせることで、最も影響を与えると推定される条件に付いて検討しました。その結果、UFOの目撃情報が多いのはアメリカの西部、北東部の端、および地理的に孤立したコミュニティであることが分かりました。 もちろん「西海岸やロッキー山脈が宇宙人に人気の観光スポットだから」という可能性は低いでしょう。3氏はこの地域の偏在性の原因を以下のように推定しています。 1. 飛行物体を妨げる森林や雲、光害が少ない地域であること。 2. 気候が安定しており、1年中野外レクリエーションが活発なこと。 3. 空港や軍事施設が近くにあること。 4. ロズウェルやエリア51など、UFO文化と縁が深い地域があること。 3番目の「空港や軍事施設が近くにあること」は特に重要です。つまり、旅客機や戦闘機のような、実在する何らかの飛行物体を目撃した時、その人にとっては正体が未確認であるためにUFOだと報告されたケースが考えられるためです。UFO目撃談は映像や写真ではなく記憶に頼ることもあるため、実際の飛行計画と照合することが困難なケースもあるでしょう。 また、UFOに関心がある人々が多い地域で目撃例が多いことも重要でしょう。UFOを目撃したいという動機があれば、それだけ空を見上げて飛行物体を探そうとするからです。また、そもそもUFOの目撃例がNUFORCに報告されなければ目撃情報としてカウントされないため、その意味でもUFOに関心があるかどうかは重要でしょう。
■UFO研究は始まったばかり
今回の研究では、UFOの目撃情報には地域的な偏りがあることを示しましたが、UFOの正体については相変わらず “未確認” としています。この研究からわかるのは、目撃者の多くは実際に飛行物体を目撃している可能性が高く、完全なデマや捏造であるものは多くないということだけです。 ただし、それ以上の正体を絞り込むことは難しいと考えられます。確かに、目撃されたUFOのほとんどは普通の航空機を見間違えた可能性が高いと考えられます。空港や軍事施設の近くは航空機が集まるだけでなく、離着陸時は高度が低くなるためより目撃される可能性が高いでしょう。その他の可能性としては観測用気球、無人航空機 (ドローン) 、閃光弾、夜間照明なども考えられます。とはいえ、ボランティアベースの情報では全ての正体を確認するのには限界があるでしょう。 3氏は、これまでUFOの科学的な研究自体が敬遠されてきたこと、その結果として政府などの信頼できる組織が集計したUFOに関する情報の不足が、今回のような研究の障害になっていると考えています。しかし、米国政府が集計したものだけに限ってもUFOの事例は510例あり、半数以上は適切な説明がされていません。国防や科学研究の観点では、この数値はより十分な検討が必要なことを示唆しているでしょう。航空機など普通の物体で説明がつく大部分と、小数の “宇宙人の乗り物候補” を排除した後に残ったものについては、国防上重要な飛行物体であったり、球電などの稀な科学的現象である可能性が十分に考えられるためです。より信頼できる情報の集計は、UFOの正体を突き止めるのに役立つはずです。 また、3氏はこれとは別に、時期によってUFO目撃の報告数がどのように変化するのかにも関心を寄せています。例えば、UFOの目撃数はここ数年増加傾向にありますが、これはスターリンク衛星の打ち上げや個人用の無人航空機の普及などによって、空を飛び交う物体の数が増加していることが原因であると考えられます。 一方で、UFOが話題になると過去にさかのぼって目撃情報が報告される場合もあります。例えば、ロズウェル事件が宇宙船の墜落であるとして話題になった1980年代には報告数が増加する傾向にありました。では、2023年の公聴会の直後には目撃情報が増えたのでしょうか?『Xファイル』のようなドラマが人気になった場合はどうでしょうか?UFOの正体をある程度取捨選択するためには、こういったバイアスも考慮しないといけないでしょう。 Source R. M. Medina, S. C. Brewer & S. M. Kirkpatrick. “An environmental analysis of public UAP sightings and sky view potential”. (Scientific Reports) Lisa Potter. “The West is best to spot UFOs”. (The University of Utah) Sean Kirkpatrick. “Here’s What I Learned as the U.S. Government’s UFO Hunter”. (Scientific American)
彩恵りり