ソフトバンク、3年間で「122億円超」大型補強もコスパがあまりに悪い…他球団関係者は「いくら待遇が良くても……」
“ハード面”への投資も他球団を圧倒
ただ、改めて獲得した選手の顔ぶれを見ても、期待通りの働きを見せたのは有原、近藤、オスナの3人くらいである。また一覧には名前はないが、2019年オフにはバレンティンを2年総額10億円で獲得しているが、2年間でわずか13本塁打という結果を残して退団している。莫大な金額に対する費用対効果という意味では極めて良くないと言わざるを得ない状況だ。 ソフトバンクのかけている大きなコストは選手獲得に関するものだけではない。練習施設などの“ハード面”への投資も他球団を大きく上回っていると言われているのだ。 2016年には筑後市に「HAWKSベースボールパーク筑後」を建設した。その総工費は約50億円とも言われている。さらに、昨年から四軍制を導入したことによって抱える育成選手が増え、9月には選手寮である「若鷹寮」も増築された。ファームの施設は試合も行われるが、一軍の試合とは違ってそこまで収益が上がるものではない。施設が増えればそれだけ維持するためのコストも増えることになる。また選手が増えればそれに比例してスタッフの数も増え、人件費なども増えている。 そしてもうひとつの大きな問題がこのファームへの投資も、今のところ大きな“リターン”を生んでいないという点にある。 2010年の育成ドラフトで獲得した千賀滉大(現・メッツ)、牧原大成、甲斐拓也の3人が活躍したことが大きく取り上げられるが、それ以降に一軍の戦力に定着した育成ドラフト出身の選手は石川柊太(2013年育成ドラフト1位)、周東佑京(2017年同2位)、大関友久(2019年同2位)しかいない。2011年から2020年までの10年間に育成ドラフトで獲得した選手は合計で59人になる。つまり、その9割以上が戦力になっていないという計算になるのだ。
「今後の補強は簡単ではない」
ただ、その中から、亀沢恭平(2011年同2位)が中日、長谷川宙輝(2016年同2位)がヤクルト、大竹耕太郎(2017年同4位)が阪神に、それぞれ移籍して、一軍の戦力となっている。これは、何とも皮肉な話である。球団の売上高は12球団でもトップであり、その基盤があるからこそとれる戦略とも言えるが、選手獲得、選手育成の両面が機能しておらず、それが過去3年の成績に表れている。 現在のソフトバンクの状況について、他球団の編成担当者は以下のように話す。 「選手にとっての待遇面は間違いなく12球団でトップだと思いますね。複数年の大型契約を結んでいる選手も多いですし、ファームの施設も充実しています。育成選手として芽が出なかったとしても、ソフトバンクのグループ会社への就職も斡旋してもらえるそうですし、選手にとってはありがたいですよね。ただ、いくら待遇が良くても選手としては試合に出てなんぼ、というのはある。毎年のように実績のある選手がFAなどで入ってくると、どうしても若手のモチベーションに影響してくるのではないでしょうか。一方で、実績があってFA宣言した選手も、条件的にはソフトバンクが良くても他球団を選ぶケースも出てきていますし、今後の補強も簡単ではないと思いますね」 昨年も支配下の70人目の選手として、7月に投手のヘルナンデス(前オリオールズ傘下3A)を獲得したことで、支配下昇格を目指していた多くの育成選手からは不満の声が聞かれた。球団も当然、現状のままでは良くないという認識もあるのか、オフには森唯斗(移籍先=DeNA)、嘉弥真新也(移籍先=ヤクルト)、上林誠知(移籍先=中日)ら、多くの実績ある選手を自由契約にして、チームの新陳代謝を試みている。 ただ、FAでは、山崎福也(オリックス→日本ハム)の争奪戦に敗れるなど、この編成担当者が言うように他球団からの補強が難しくなっていることも確かだ。 このオフには山川の人的補償問題もあり、あらゆる面で逆風が吹いているなかで、強いホークスを取り戻すために必要なのは、“札束”だけではないはずだ。 西尾典文(にしお・のりふみ) 野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。 デイリー新潮編集部
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