【追悼】「巨人の進撃が景気を刺激するかも」 渡辺恒雄主筆が知人への手紙に綴っていた“キレ味鋭い”文章を公開
90歳目前とは思えない文章
巨人の話題以外に目立つのは、やはり政治経済に関する記述である。2015年のペナント開始直前には、両者を結び付けてのユーモラスな文章がつづられている。細かいデータまで盛り込んだ文章はとても90歳を目前にした人物のものとは思えない。 「プロ野球公式戦も開幕し、巨人スタート・ダッシュ成れば、ベース・アップに沸く経済界もいよいよ上げ潮に向き、アベノミクス第三の矢開花の予兆になるでしょう。 平均株価も二万円台をさぐる勢いであります。日銀の三月十八日に発表した資金循環統計によれば、昨年十二月末時点で、去年一年間に家計の金融資産合計は五十兆円増の一六九四兆円に、同じく家計の預貯金は十六兆円増の八九〇兆円、また家計に埋蔵されている現金が二兆円増の五九・五兆円あり、借金が千兆円を越したと騒がれている日本の財政と対照的であります。ゆえに財政再建も必須ですが、賃上げや投資拡大による上げ潮政策もまた必要と考えられ、巨人の進撃がこの世潮をプッシュすることを念願しております。(コレ非科学的思考でしょうか? )」
モリカケなんか国会でやるな
ライバル社への批判を皮肉交じりに展開することもあった。左派マスコミを批判する文章の切れ味は鋭い。 「抑止力強化のための自衛力整備を戦争準備法案だと報じる一部大手新聞を含めたマスコミが、隣の帝国主義大国(注・中国)に対しては、その主張に従いただ過去の歴史を詫びろというのみです。これは、国際的マゾヒズムといえましょう」(2015年5月) 朝日新聞に代表される中国に甘いメディアを「マゾ」と断じているのだ。 政治に対しても厳しい目を向け、特に国会での議論への不満を漏らす文章が目立つ。 「歴代政権のスキャンダルは、必ず政官要人の刑事訴追を伴いましたが、今日の『モリカケ』で刑事犯罪に該当する政官要人は一人もいません。国会は北朝鮮や日米通商問題に早く本格的に取り組んでもらいたいものです」(2017年3月) 「会期末の国会は、外交・経済等の難題を棚上げした退屈な『モリカケ』論争にうんざりしています。野党の政策的レベル低下はひどいものと存じます」(2018年5月) モリカケとは言うまでもなく、安倍元首相にかけられた「森友・加計」疑惑を指す。安全保障や憲法改正など大きなテーマを紙面で正面から取り上げることに積極的だっただけに、スキャンダルの追及に終始する国会には耐えがたいものがあったのかもしれない。 読売新聞社の発表によれば死の数日前まで社説に目を通していたという。最後まで巨人軍、そして日本の行く末を気にかけていたのだろう。
デイリー新潮編集部
新潮社