一筆書きパズルの新たな地平――変化するルールを理解する悦びをとことん味わえる『LOK Digital』レビュー
『The Witness』や『Linelith』などの“一筆書きパズル”界隈に、新たな名作が投じられた。 【画像】傑作パズルゲーム『LOK Digital』のスクリーンショット その名は『LOK Digital』。Blaž Urban Gracarが作ったアナログのパズルブック『LOK』のデジタル版である。その名のとおり、LOKという文字を指でなぞって仕掛けを解いていくものなのだが、自分で仕掛けを理解するまでの過程や、絶妙なバランスの文字配置など、パズルゲーマーが求める知的興奮がギュッと詰まった傑作だった。 一見して解けそうにないパズルを解けたときの気持ち良さが何十回と味わえる、まさしくパズルゲームのなかのパズルゲームである。では、細かく見ていこう。 ■やることは盤面をなぞるだけ 少しずつ増えていくシンプルだが奥深いルール 本作はLOKというウニョウニョした黒い生物が繁栄するのを手助けするパズルゲームだ。といっても、ストーリーらしいストーリーはほとんどなく、たまに彼らの生態が覗けるくらいで、ほとんどの時間はパズルに集中することとなる。 ほぼすべてのステージには白いパネルが並んでおり、その上に英語が刻まれている。最初はL、O、Kと空白のパネルがあるだけだ。このLOKを順番にクリックないしなぞっていくことで、仕掛けが起動し、どこか好きなパネルを黒く塗ることができる。ここでステージクリアだ。 つまり、このゲームは特定の文字列をなぞって仕掛けを起動させ、すべてのパネルを黒く塗るのが目的なのである(文字列を作るとニョキッとLOKたちが顔を出すのが可愛い)。 とてもシンプルなこのルールを裏切るステージは一切ない。また、ステージ進行上でアップグレードをしたり、行ったり来たりすることもない。ただただ仕掛けを理解し、どの順番で塗るかだけを求められる作品である。 LOKのステージをクリアしたら、次はTLAKだ。今度はTLAKとなぞると、特定のパネルを2枚塗ることができる。しかし、その2枚は必ず隣接していなければならない(なお、この“隣接”の判定に関して少し捻りがある)。 もちろん、TLAKのステージにもLOKは出現する。ここまで来たら未プレイの読者の方でも勘付いたかもしれないが、基本的にこのゲームは先に行けば行くほど、どんどん使用しなければならない文字列が増えていって、最終的にかなりの量の仕掛けを考慮しなければならなくなる。 といっても、単純にアルファベット26文字をフル活用しなさいとまでは言われず、“これまでに教わったルールをどれほどちゃんと理解しているか?”ということを考える必要が出てくる。 文字のインフレが止まったゲーム中盤くらいから、一対一で対応していたはずの文字と仕掛けのゲームルールが崩れていき、まるで代数学の試験問題でも解いているかのような、考え方の飛躍と、その先にある美しい方程式を見つけ出すことが必要になってくるのだ。 LOKをなぞるとひとつ塗れる、TLAKとなぞると隣接した文字をふたつ塗れる……ということは、LOKに比べてTLAKは塗りすぎてしまうとも言える……といった具合のちょっとした発想の転換から、さっきまで思ってもみなかったような解法まで一直線にシナプスがつながる。これが本当に気持ちいい。 もちろん、これらのパズルに一切学術的な知識は要らない(英単語もおそらくすべてオリジナルのものである)。だんだんと複雑にはなっていくが、メモ用紙やペンといったものも必要ないし、どの問題も解法さえわかれば1分もしないうちに解けるような短さである。パズルとしての品質の高さの割に、一問だけ解いて閉じるといったような手軽さで遊べるのも素晴らしい。 アンビエント音楽もゲームプレイを一切邪魔せず、効果音もいちいち気持ちいい。焚火を囲んでいただけのLOKたちが、気づけば工場で働いていたりと、ちょっとずつ彼らが進歩していく様を見るのも割と楽しい。硬軟併せ持った隙のない作品である。 さっきから誉め言葉しか言っていないが、本当にオープニングからエンディングまでずっと同じ面白さが続く最高純度の頭の体操であり、貶すところがまるで見当たらないので、これぞマスターピースだと豪語するほかないのである。年末のこの時期にこんな傑作がひっそりと現れるとは……たまたま海外のショーケースを眺めていて本当に良かった。 ちなみに、筆者は8-11のパズルを最も推したい。まるでニュートンの運動の第2法則(F=ma)のように、完璧な方程式であればあるほど最小限の構成なのだという、この世の真理が垣間見える問題である。ぜひとも自力で解いてみてほしい。
各務都心