齊藤工 「福島に移動映画館を作りたい」
ショートフィルム『半分ノ世界』で初監督に挑戦した俳優の斎藤工(ソフトバンクモバイルのスマホ向けアプリ『UULA』で配信中)。映画通として知られる齊藤が作品に詰め込んだこだわり、そして「エンドロールに名前が載らない映画との関わり方もありだと思う」と明かした大きな“野望”まで、映画に懸ける熱い思いを聞いた。 映像製作に携わっていた父親の影響で「(映画の)エンドロールのどこかに名前が載ることを目標に」小学生時代から映画に熱中する日々を過ごしてきた。俳優として銀幕デビューを果たしてから14年が経った現在も、その思いに変化はないが、近年「エンドロールに載らなくても、映画に関われる」ともう一つの思いを抱えているという。 「移動映画館をやりたいんです。福島の劇場がいま、ほぼゼロに近くて、映画を見るには仙台に行くしかない。子供たちが劇場体験をできる状況が減ってきているんです。僕は劇場体験から(映画作品の)人生を分けてもらって、劇場だからこその刺激を受けた。その体験を作りたいんです」。 映画に人生を導かれたからこそ抱く、熱い思い。「震災後ずっと思っていたけどアクションに起こしていなかったので、大きな目標として水面下で動いていきたい。それこそいろんな方とタッグを組んで、1回きりじゃなく継続的に。1本の映画で人生変わる人もいるんですよね。映画の持つ『体験』っていうところに意識を持っていきたいし、そういう映画との関わりもありだなって思います」。 もちろん、作品作りへの情熱が消えたわけではない。今回、齊藤にとって2度目の監督業に挑むことになった今回の作品。SSFF&ASIAの代表である俳優・別所哲也からの、プロジェクト参加の打診を受け、その環境を整えた齊藤は「映画の現場で何よりもベースになるものは脚本」という思いから全幅の信頼を寄せる金沢知樹氏に脚本を依頼した。以前より愛聴していた大橋トリオの「HONEY」を題材に、全日制高校に通う女子高生と定時制高校に通う青年の、机の上の落書きを介した心の交流を描くストーリーを金沢氏と二人三脚で作り上げた。 豊富な知識を生かして映画番組のナビゲーターを務めるなど、大の映画フリークである齊藤は製作の各所で強いこだわりを発揮した。配役では「『レオン』のジャン・レノとナタリー・ポートマンの絶妙な年齢差を目指したい」と主役の男女のカップリングを追求し、テレビ朝日系ドラマ「ハガネの女Season2」(11年)で教師と生徒役で共演以来その存在感に注目していたという田辺桃子と、「モデル時代からの大先輩」である演技派・井浦新を起用。構成では第85回米アカデミー賞短編実写映画賞受賞作「リッチ―との一日」をインスピレーションの源とし、スタッフ全員で共有した。また、「芝居をした後に監督が近づいてくるって、やっぱりすごく嫌なんですよ。『なんか言われる~来ないでくれ~』って思うので、そうしたくなかった」と、俳優ならではの気配りも。