「会ったその日にする」と答える高校生が増えているワケ 背景にある“新しい恋愛のスタイル”
付き合っていると思い込み――“勘違い”から生まれるトラブル
別の高校の先生は言う。 「ネット上で知り合ってちゃんとした告白がされていればいいんですが、今の子たちを見ると必ずしもそうじゃないんです。LINEのIDを交換しただけとか、ビデオ動画を送り合っただけとか、そんなことで一方的に付き合っていると思い込むことが多い。恋愛をし慣れていないか、もしくはリアルで人とかかわることに慣れていないために、そうした勘違いが起きて、いろんなトラブルが生まれているのです」 学校では生徒の方から「恋人ができた」と自慢げに言ってくることがあるが、先生が知り合った場所を尋ねると「ネット」と答えるという。さらに、ネットで告白したのかと聞くと、生徒は首を振る。では、なぜ付き合っていると思うのか。その質問に、生徒は、「週2くらいでオンラインゲームをしているから」とか「画像を送り合う仲だから」と答えるらしい。つまり、オンラインゲームをしたり画像を送り合っているだけで、交際していると勘違いするのだ。 先の先生は次のように話していた。 「最近、生徒がストーカーになるといったトラブルがとても増えています。片方は付き合っていると思っていても、もう片方がそうじゃないので、一方的に嫉妬したり、恋愛感情を募らせたりして執拗に絡む、追いかけるといったことをする。それで親の方から『うちの子が同級生にストーキングされている』という連絡がくる。こういう生徒の間に入って問題を解決するのはとても骨が折れます」 私自身、2018年に熊本県で起きた女子高校生のネットいじめ自殺事件を取材したことがある。 この被害者の女子生徒もまた、同級生の男子生徒に一方的に付き合っていると勘違いされていた。男子生徒は彼女が別の男性と一緒にいたことを「浮気」と言いだし、クラスメイトらと罵声を浴びせて自殺に追い込んだのである。 事件にまでなるのは氷山の一角だろう。現場の先生たちによれば、生徒の一方的な思い込みによるトラブルは異なる形でも表れているらしい。 関西の高校の先生は、ネットの恋人とのトラブルについてこう語る。 「生徒たちはよく『会ってみて騙された』といったことを言いますね。ネットでしかやり取りしていないと、実際に対面してみたら想像と全然違う。それを『騙された』『裏切られた』って表現するんです。私にしてみれば、それはあなたの思い込みよと言いたくなるのですが……。 何にせよ、顔や性格が創造と違ったくらいならいいんですが、悪質なケースだと、お金を請求されたとか、DVされたとかいったことになります。女子の場合は、年上の異性と出会う機会が多いので、よりトラブルになりやすいです」 この先生が口に出したのは“蛙化現象”という言葉だ。 2023年の新語・流行語大賞にノミネートされた言葉で、本来的には「好意を持っている相手から、逆に好意を寄せられると、途端に気持ちが冷めてしまう」の意とされている。 流行語としての蛙化現象の意味はまた少しズレることもあるようだが、先生によれば、今の子どもたちが口にするこの現象には、ネットの出会いによって引き起こされているものが少なくないという。 先生方が懸念しているのは、こうしたトラブルが高校生に限らず、中学生、いや小学生にまで波及し、低年齢化していることだ。 例えば、東京都の調査では、オンライン上で知らない人とやり取りしたと答えたのは、小学校低学年ですら5人に1人に迫る19.6%となっている。この一部が高学年になって本稿で見てきたような事態に陥ることは十分に想定しうることだろう。 子どもたちを取り巻く環境は、大人の想像よりはるかに先に進んでいる。その現実をしっかりと直視しなければ、彼らにとっての安心・安全な社会を作り上げることは難しい。
石井光太(イシイ・コウタ) 1977(昭和52)年、東京生まれ。2021(令和3)年『こどもホスピスの奇跡』で新潮ドキュメント賞を受賞。主な著書に『遺体 震災、津波の果てに』『「鬼畜」の家 わが子を殺す親たち』『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。また『ぼくたちはなぜ、学校へ行くのか。マララ・ユスフザイさんの国連演説から考える』など児童書も多い。
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