金沢21世紀美術館「開館20周年記念 すべてのものとダンスを踊って―共感のエコロジー」レポート。分断や差異ではなく共感から未来のヒューマニティを探る
金沢21世紀美術館が20周年、サステナブルから新しいエコロジーへ
金沢21世紀美術館で「開館20周年記念 すべてのものとダンスを踊って―共感のエコロジー」が11月2日に開幕した。会期は2025年3月16日まで。企画は同館館長の長谷川祐子、同館学芸員の池田あゆみ、本橋仁、そしてコ・キュレーターの哲学者エマヌエーレ・コッチャが担当した。 開館20周年を迎える今年、金沢21世紀美術館は「新しいエコロジー」を年間テーマに据えている。美術館の開館前から立ち上げを主導した長谷川は、他美術館勤務などを経て21年4月に同館に戻り館長に就任。その際に「美術館で始める“未来支度”」を掲げた。サスティナブルな未来を作るための準備を美術館のミッションとしてきたこの3年強、そして開館以来の20年間の集大成というべき展覧会が本展だ。 展覧会には先住民の作家を含む、アフリカ、南アメリカ、アジア、欧米の芸術家、クリエイター59組が集い、21世紀のエコロジー理論を頭でっかちな「知識」としてではなく、感覚や感性に働きかける作品を展示。またヴィジョンを共有する科学者や哲学者などの研究者たちと協働していることも本展の特徴だ。こうした多様な知のネットワークによって、専門的な内容を視覚化、可感化し「感覚を通した学び(Sensory Learning)」として鑑賞者に伝えることを目指す。 タイトルにある「すべてのもの」というのは、動物や植物、情報や機械、AI、身の回りにある様々なモノから宇宙の星々、そして精霊まで、人間を取り巻くあらゆる存在を指す。人間だけでない、こうしたノンヒューマンの存在も含めたあらゆるすべてのものとダンスするという本展のコンセプトは、人間中心的な視点をずらした新しいヒューマニティや世界との関わり方を提示する。 世界中で喫緊の課題となっている気候危機、そして紛争や経済格差などが激化し、「分断の時代」と言われる現代にあって、「すべてのものとダンスを踊って」というのはいささか楽天的だと思われるかもしれない。しかし長谷川は、あらゆる社会的な議論が「差異を強調する方向」に向かっている現状に対し、「私はこの展覧会において、何が一緒なのか、何を共有することができるのかという方向に切り返しをしたい。これを転回のエコロジーと呼びたいと考えています。ともに相手を観察し、何を共有しているかを知ることで、相手に手を差し伸べて一緒に踊ることができるのかを考えたい」と語る。 ダンスという言葉は、本展にも「プロジェクト:アニマ・レイブ:存在の交差点で踊る」に参加している総合地球環境学研究所の所長を務める霊長類学者・山極壽一の研究からヒントを得たもの。山極は「身体化されたコミュニケーションが踊りである」との観点から、身体的に弱く小さい人類が生き延びられたのは、二足歩行や言語を獲得する前に踊りというコミュニケーションによって共感・共鳴を生み出したことに理由があるとする。「そうした相互扶助、共感のあり方に立ち戻りたい」(長谷川)。