大谷翔平の盗塁は減る ロバーツ監督二刀流の負担考慮「私が走らせません」…栗山英樹氏との対談で明かす
ドジャースのデーブ・ロバーツ監督(52)と2023年WBC日本代表監督で日本ハムCBO(チーフ・ベースボール・オフィサー)の栗山英樹氏(63)の新春特別対談が実現した。大谷翔平投手(30)を擁して世界一に輝いたという共通項を持つ2人が大いに語り合った。(取材・構成=柳田 寧子、安藤 宏太、村山 みち) ロバーツ監督(以下ロ) クリヤマさんのことはとても尊敬しています。23年のWBC、日本の監督として素晴らしいと思ったのは、プライドを保ちながら一つに束ねたこと。日本チームはマナーが身についていて、相手に尊敬の念を持ちながら、タフ。私もそういう人間です(笑)。そして米国チームを恐れていませんでした。あのチームカラーは、あなたの人間性を反映していたと思います。 栗山CBO(以下栗) ありがとうございます。あのチームで、ドジャースのような超一流の選手たちに携われたので、勉強になりました。 ロ 日本ハム監督時代に、ショウヘイは二刀流をしながら盗塁していましたか? 栗 いや、盗塁は止めていました。体がまだ成長していなかったので。でも昨年の59盗塁はすごかったですね。 ロ とても特別でした。投げてなかったからでしょうね。ずっとグリーンライト(青信号=いつでも盗塁OKのサイン)。たぶん5回くらいレッドライト(赤信号=盗塁NGのサイン)でしたけど、ショウヘイから「どうして?」と聞かれて「(どんな状況か)スコアボードをご覧なさいよ」って言いました(笑)。 栗 ホントに走りたがりますよね。WBCの時もレッドライトにしてましたよ。 ロ 今年は二刀流ですから、本塁打は少し減ると思います。それより盗塁は、とても減ると思います。私が走らせませんから。足を守らなければいけません。ノーグリーンライトです! でもきっと、今年こうなると分かっていたから、彼は24年に40―40(40本塁打、40盗塁)や50―50を目指していたと思いますね。 栗 ちなみに、シーズン中にベンチで翔平に何か言っているシーンが何度かありましたけど、それはあえてやっていたのですか。日本では翔平に誰も何も言わなくなってました。何か意図はあったんでしょうか。 ロ 積極的にいってはいけない状況だったから、ベンチで話したんだと思います。でもショウヘイのことはカメラが常に追っているので、2人の会話はだいたい監督室です。空振りが多くなったりすると呼んで「落ち着いて。ボール球に手を出してるぞ」と言ったら彼は「そうですね…」と。紙に打席の絵を描いて、ボールゾーンを指して、ココは(日本語で)「ダメ、ダメ、ダメ!」、ストライクゾーンは「マン振りで!」と伝えたら、「OK」と。その後の試合でホームランを打った日もありますよ(笑)。彼の愛すべきところは、世界で一番いい選手にもかかわらず、いつでも学ぼうとするところです。 栗 ドジャースは世界一集団ですが、その中でも翔平が「世界で一番」とおっしゃるんですね。 ロ 契約した当初は、いくら素晴らしい選手と言われても「ナンバーワン」とは言えませんでした。うちにはスーパースターがそろい、ベッツ、フリーマンとMVP選手たちがいますから。でも1年間一緒にプレーをした今なら、ハッキリ言えます。「イチバン」です。翔平は毎日、試合に備えて時間を無駄にせず、何かしらやっています。それは卓越していて、素晴らしい。他の選手もそれを見ているから、尊敬してマネしようとする。でも、できないんです。だって毎日毎日、同じことを続けるのは難しいですから。 栗 そうですね。監督が翔平に会って一番ビックリしたことは、そういうところですかね。 ロ 彼があんなに細かいところにこだわると思いませんでした。ティーの高さ、スイングの数、いつも毎日同じ。彼はやることの全て、1インチ(2・54センチ)に至るところまで、厳密、全て精密。他の選手は多少変わっても問題ないけど、ショウヘイはダメ。あとは、あんなに大きいとも思っていませんでした。強靱(きょうじん)だし、速いし、剛腕。クリヤマさんはショウヘイのここまでの成功に驚いていますか。 栗 いや、ビックリしてません。僕が天井をものすごく上に見ないと二刀流はできなかったので、僕は信じて前に進みました。でも24年の成功はロバーツ監督のおかげです。 ロ Nooooo(笑)。 栗 今年、再びWSを目指す中で、翔平は投げて、打ちます。僕は彼の進化を信じているので、もっと違うことができるかも、とちょっと想像したりしてます。未来、守っている大谷翔平の姿を想像しますか。 ロ そうは思いませんね。ショウヘイは投手でいたい。そして打ちたい。彼は史上最高の選手でいたいと思っている。外野手をやらせることは、ちょっと欲張りすぎだと思う。投球をしている限りは、DHとしてしか使いません。でも、この先何があるかなんて、誰も分からないですよ。だって、ショウヘイですからね。 【取材後記】 対談を終えたロバーツ監督は、興奮気味に繰り返した。「ホントにすばらしい時間だった」。昨年、ドジャース担当として監督の生の声を聞く機会は100回を超えたが、これほどうれしそうに話す姿は初めて見た気がした。 日本人の母を持ち、生まれて最初に発した言語は日本語でも、今は「分かる単語もあるけど会話はできない」という。「小さい時にお母さんから『日本語を話しなさい』と言われてたのに、拒否してた。ちゃんとやっておけば良かった」と苦笑いした。一方の栗山CBOも「英語苦手なんで」と恥ずかしそうに笑っていた。お互いに「通訳が必要」と臨んだ対談。でも実際は私が介したのはお手伝い程度だった。 「翔平」「ショウヘイ」と大谷のことを互いに息子のように語り合い、どちらも訳を聞く前に、前のめりに口を開いた。二刀流復活シーズンを前に、「監督お願いしますね」と栗山CBOが心配そうに頼めば、ロバーツ監督は「ちゃんと見ています」と心配無用と言わんばかりに返した。 対談後に確信した。この愛情ある、理解しようとしてくれる2人の指揮官との出会いが、誰も成し得なかった成功につながっているのだと。(村山 みち)
報知新聞社