MLB決断のワンポイント登板禁止ルールを日本は採用すべきか?
最低3人、或いは、イニング終了時点まで交代不能となれば、ツーアウトのピンチで、左打者を迎えたところか、或いはワンナウトでも左打者が並ぶ場面でしか、左のワンポイント投手の起用チャンスはなくなる。しかも、打たれた場合、イニング終了か、あと2人に投げるまで交代ができないので、さらに傷口を広げる可能性も高いため、ベンチもワンポイント投手の起用にリスクを覚えるだろう。 そうなれば、左のワンポイント投手は絶滅するかもしれない。また小刻み継投で、守り切るベンチワークの妙も消滅するだろう。ある意味、野球が面白くなくなる。 日本のプロ野球には対左のスペシャリストが試合を盛り上げてきたという歴史がある。 広岡達朗氏が西武監督時代に左のサイドハンドの永射保をロッテのレロン・リー対策に左のスペシャリストとして起用、左キラーの代表的な左腕として存在感を示したし、広島から近鉄でプレーした左の変則、清川栄治も左キラーとして重用された。 阪神では、左腕の福間納が、登板記録を塗り替え、山本和行、中西清起の左右のダブルストッパーという戦術もあった。ロッテの藤田宗一、中日の小林正人も、左のワンポイントの代表格の投手だろう。 また右投手ながらワンポイントで起用されて効果を発揮したのが、横浜のサイドハンドの木塚敦志やダイエー時代の長富浩志ら。中日時代のデニー友利もそうだろう。 戦術で言えば、野村克也氏が阪神監督時代に、「野村スペシャル」と呼ばれた異例の小刻み継投を繰り出したことがある。 巨人の松井秀喜対策に左腕の遠山奬志をワンポイントで起用。次に右打者が来ると、一度、一塁か外野を守らせておいて、右のアンダースローの葛西稔を起用し、再び左打者が来ると遠山が登板、今度は葛西を一塁か外野へ。そして次の右打者に再び葛西がマウンドに上がるという「遠山・葛西・遠山・葛西」という異例の継投で、終盤を乗り切ったことが何試合かあった。だが、このルールが採用されると、その手のスペシャル継投はできないし“一人一殺型”の継投の妙が見られなくなる。 現在の対左のスペシャリストとしては、ソフトバンクの嘉弥真新也、楽天の高梨雄平、日ハムの公文克彦、阪神の高橋聡文らの名前が挙がる。もし、このルールが日本でも採用されることになれば左打者の並んでいない場面や、アウトカウントが浅いケースでは、ベンチが起用に躊躇するのかもしれない。 もう左対左のこれまでのセオリー通りの起用法も消え、右左関係なく、いい投手からマウンドに送るという考え方に変わり、また攻撃側も、意識的にジグザグ打線を組むなど、このルールに適した戦術を練るかもしれない。野球が変わる可能性は高いだろう。 これまでの傾向からすれば、メジャーが1、2年新ルールを実施してから日本が採用する流れ。そう考えると日本のプロ野球に導入されるのは早くても2021年からということになる。まだ十分に時間があるだけに、メジャーでのルール変更が、どういう影響を及ぼすかをしっかりと検証する必要があると思う。なんでもかんでもメジャーのやり方を追随してしまえば、日本のプロ野球が、これまで育んできた丁寧で奥深い野球の良さが失われることにもつながる。試合時間の短縮が目的ならば、里崎氏が指摘するように、他の部門での改善を考え、次なる問題が、4年に一度のWBCへの影響程度であれば、このルールを採用する必要はないのではないか。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)