【パリ五輪を戦った大岩剛の回顧録|前編】セレクターは違う、ティーチャーだ。高井幸大にも諦めず愛情を注ぐ「ケツを叩くしかなかった」
「ここ最近また目つきが変わってきたと思う」
選手に寄り添う姿勢が基本のスタンス。練習後や試合後、宿泊施設などで選手たちと熱く話す。それは最後まで崩さなかった。印象的だったのは、2023年9月にバーレーンで行なわれたU-23アジアカップ予選(パリ五輪の1次予選)だ。中東の酷暑に苦戦し、特に暑さが厳しくない環境でプレーしていた欧州組は軒並み調子を落とす結果に。 4チームの総当たり戦で各組1位と2位の上位4チームがアジアカップ本大会に進めるなかで、2連勝で迎えたバーレーンとの最終戦はスコアレスドロー。主力組の不調が響き、冷や汗を欠きながらの首位通過だった。 チームリーダーのひとりだったMF山本理仁(シント=トロイデン)も例に漏れず、不甲斐ないプレーに終始。バーレーン戦の直後、山本はグラウンドでうなだれ、ロッカールームに引き上げる。そこに駆け寄って言葉をかけたのが大岩監督だ。 「お前が引っ張っていくんだぞ」 あえて叱責し、山本の心に火を灯した。まさに先生と生徒のような関係性であり、その一つひとつの言動が選手の力を引き上げていった。 DF高井幸大(川崎)に対する接し方も印象深い。U-23アジアカップ予選が大岩ジャパンでの初招集となったが、不安定なプレーで評価を落とした。だが、諦めずに愛情を注いでステップアップのきっかけを生み出している。 「いいモノを持っている。高さもあるし、スピードもある。でも、高井はチームで継続して試合に出られていないので、緊張感があまりなかった。でも、今春のU-23アジアカップで変わりましたよね。(1-0で勝利した)中国との初戦で西尾(隆矢/C大阪)が退場していなければ、先発で使い続けていなかったかもしれないけど、良い意味で期待を裏切ってくれた。ここ最近また目つきが変わってきたと思う。 19歳、20歳で連続した経験をできたからこそ、強度と緊張感のあるゲームを続けていかないといけない。1試合やって2試合休むでは顔付きも目付きも変わらない。やっと立ち位置が変わってきて、アジア最終予選を戦ってパリ五輪を経験して良くなった。でも、大事なのはここから。A代表でまたコテンパンにやられるだろうしね」 大岩監督のサポートが大きな意味を持ったが、それだけでチーム力アップが図れるわけではないし、選手の力を引き上げられるわけでもない。適切な環境を与えなければ、どれだけサポートをしても無駄骨になる。そこでもうひとつ大きなポイントになったのが、マッチメイクだった。 《中編に続く》 取材・文●松尾祐希(サッカーライター)