年収500万の公務員が「貧困取材」を受ける事情 発達障害者の生きづらさは「日本特有の人間関係」にある?
■圧倒的な自己理解へのこだわり 次第に不眠の症状が出るようになり、終業後も30分以上椅子から立ち上がれない日もあった。産業医のアドバイスで半年ほど休職したものの、事態は改善しなかった。視覚障害のある同僚に心ないことを言ってしまったのは、ちょうどこのころのことだ。 取材で驚いたのは、シンイチさんの話は一貫して客観的、相互的だったことだ。「やらかし」の背景にある障害特性から自身に対する周囲の視線まで、なぜシンイチさんはここまで冷静に自身のミスや失敗を語ることができるのか。
それは徹底した自己理解と自己分析の賜物だ。診断後、シンイチさんはデイケアや就労移行支援事業、生活支援事業といった福祉サービスを利用しながら、民間の自助会や学習会、フォーラムにも足を運んだ。 視覚障害についての無知への反省もあり、障害者スポーツの指導員養成講習会にも参加してみた。大人の発達障害をテーマにした研修会で公認心理師の話を聞いたり、学会で短時間ながらも職場における「合理的配慮」に関する独自の調査結果を発表したりもした。圧倒的な自己理解へのこだわりは、障害特性のプラス面が発揮されたともいえそうだ。
こうした過程で出会った発達障害の当事者は、自分の興味のある話を一方的にする人が多かったという。「自分と同じ。まるで鏡を見ているようでした」とシンイチさん。コミュニケーション上の課題を自覚してからは、周囲の雑談にも耳を傾けるようになった。 今も雑談は苦手だ。それでも最近は「それわかります」「へー、そうなんですか」といった相づちのバリエーションを増やすことや、「でも」などの“否定ワード”を使わないこと、相手の話を途中で遮らないことなどを心掛けている。どうしても雑談が苦痛になったときは「ちょっとトイレに行ってきます」と言って中座する“技”も身に付けた。感情の起伏も服薬でなんとかコントロールできるようになったという。