「立憲民主党の躍進」はマスコミのウソ…「自公過半数割れ」の石破首相に主役を奪われた"本当の敗者"の名前
■石破政権の余命は長くて半年 自公与党は当面、国民民主党の主張を次々に受け入れながら政権運営を続けていくほかない。けれども過半数割れの状況が続けば、国民が反旗を翻した時点で政権は立ち往生してしまう。どこかで過半数を回復して安定政権を取り戻したい。 過半数回復策は二つしかない。ひとつは連立の枠組み拡大だ。国民が連立入りに応じてくれれば、すぐに過半数を取り戻せる。国民がハードルをあげれば、維新と交渉することも可能だ。立憲と大連立を目指す選択肢もある。しかし、どの党も来夏の参院選までは連立入りに慎重だろう。 もうひとつの選択肢は、来夏の参院選にあわせて衆参ダブル選挙に打って出ることだ。総選挙は終わったばかりだが、自公過半数を取り戻す手っ取り早い強硬策である。もちろん、不人気の石破政権ではダブル選挙は戦えない。来春の予算成立後に再び首相を交代させ、新しい政権で支持率を回復して衆参ダブル選挙を探るシナリオだ。 衆参ダブルでなくても、来夏の参院選は石破政権では戦えないという空気が自民党内には広がっている。来春の予算成立まで、国民民主党に譲歩を重ねるしかない厳しい状況は石破政権に委ね、予算成立のタイミングで「石破おろし」が吹き荒れる展開がもっとも有力だ。石破政権の余命は長くて半年ではないか。 ■国民民主を利用して党内不満を抑え込む 石破首相の政権基盤は極めて弱く、いつ倒れてもおかしくはない。自公は過半数を割っている。自民党内も最大派閥だった安倍派は大量落選して「石破おろし」にただちに動く気配はないものの、第二派閥だった麻生派や第三派閥だった茂木派は非主流派に転じ、石破政権を支える機運は乏しい。 石破首相は、少数与党を逆手に取って「国民民主党の主張を受け入れなければ、自公政権そのものが崩壊する」と訴え、党内の不満を抑え込んでいくしかない。国民民主党に命運を握られた政権運営が続く。 国民民主党はそれを見越し、年末の予算編成・税制改正で「103万円の壁」撤廃とガソリン税減税だけは何としても受け入れさせたい意向だ。政策活動費の廃止や旧文通費の全面公開を盛り込んだ政治資金規正法の再改正も年内に実現するよう求めていく。 総選挙で訴えた公約を次々に実現させ、成果を出し続けない限り、自公接近に対する批判が高まりかねない。自公政権の延命に手を貸す補完勢力に成り下がれば、来夏の参院選で惨敗するだろう。来春の予算成立後に、総選挙の公約に掲げた消費税減税を要求して決裂し、参院選では再び自公批判に転じるのが最もしたたかな戦略だ。 ■二大政党への拒否感はますます高まるだろう 国民に不人気の石破首相も野田代表も居座った。少数与党政権で日本の政治は混迷し、来夏の参院選に向けて、二大政党への拒否感はますます高まるだろう。政界の主役に躍り出た国民民主党に加え、日本維新の会やれいわ新選組、共産党、さらには参政党や日本保守党も巻き込んだ政界の多極化が加速していくのではないか。 日本政界は乱世に突入した。総選挙は「ゴール」ではなく、政界激動の「はじまり」である。 ---------- 鮫島 浩(さめじま・ひろし) ジャーナリスト 1994年京都大学を卒業し朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝らを担当。政治部や特別報道部でデスクを歴任。数多くの調査報道を指揮し、福島原発の「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。2021年5月に49歳で新聞社を退社し、ウェブメディア『SAMEJIMA TIMES』創刊。2022年5月、福島原発事故「吉田調書報道」取り消し事件で巨大新聞社中枢が崩壊する過程を克明に描いた『朝日新聞政治部』(講談社)を上梓。YouTubeで政治解説も配信している。 ----------
ジャーナリスト 鮫島 浩