中国で広がる「低空経済」、航空機エンジン企業に脚光 耐空性とコスパで勝負
航空機エンジンの開発を手がける中国スタートアップ企業「鴻鵬航空(Falcon Aviation)」がこのほど、シリーズA+で数千万元(数億~十数億円)を調達した。出資は政府系企業の珠海大横琴集団(Da Heng Qin)が主導し、超越摩爾基金と既存株主の銀珠資本も参加した。 ディーゼルピストンエンジン「鴻鵬D160」の設計図の写真などを見る 鴻鵬航空は2020年に設立され、航空機エンジンの設計や開発、生産、メンテナンスなどを提供し、ターボプロップエンジンやピストンエンジン、レンジエクステンダー式ハイブリッド推進システムといった多岐にわたる製品ラインを構築した。 中国では一般航空および「低空経済」産業がさまざまな分野に浸透しており、農業・植物保護や電力システム巡回検査、物流・配送、観光、環境モニタリング、緊急対応・救援を含む第一次産業から第三次産業まで広く関わっている。 推進力を生み出すエンジンは、航空機の性能や効率、信頼性に直結する中核部品だ。しかし、中国の民間航空・一般航空産業は動力システムの基盤が弱く、民間航空機エンジンは世界の先進レベルから大きく遅れている。 鴻鵬航空の創設者・許可達氏は「一般航空機と民間航空機に使用される中・小型エンジンは間口の狭いニッチな市場で、外国製品がずっとシェアを握ってきた。競争力がある中国の製品やブランドが少なく、市場のギャップを埋めることは急務となっている」と話した。 同社のチームは、耐空性とコストパフォーマンスが製品の強みになると考えてエンジンを開発し、物流のほかに救助や緊急対応、観光などの分野で、一般航空や低空飛行に使われる飛行機の必要にかなった推進装置のソリューションを提供している。 製品は現在、ディーゼルピストンエンジンのDシリーズ、ガソリンピストンエンジンのGシリーズ、ターボプロップエンジンのTPシリーズ、レンジエクステンダー式ハイブリッド推進システムのEシリーズなどを展開している。主力製品の「鴻鵬D160」は、EASA耐空証明をアジアで唯一取得したディーゼルピストンエンジンだ。4ストロークで出力160キロワット、コモンレール式燃料噴射システムを採用するほか、FADEC(電子制御装置)2つと減速機も搭載し、稼働可能時間は2万時間を超えるという。 10月21日には、大横琴が運営する産業集積エリア「斗門大横琴5.0産業新空間」で鴻鵬航空のピストンエンジン珠海生産拠点が稼働し始めた。中国の民間エンジンメーカーとして初めて欧州航空安全庁(EASA)規格を満たす組立ラインを配備した工場で、研究開発・試作から生産・組立、グローバルMRO(メンテナンス・リペア・オペレーション)サービスが可能となっている。許氏によると、同工場の第一期生産ラインはすでにフル稼働しており、生産台数は年間500台に上る見込みで、第二期生産ラインが完成すれば、生産台数はさらに増える見通しだ。 珠海生産拠点は、同社にとって最初の量産工場にもなった。取締役の陳晨CFOは、この生産拠点が同社の収益力を高め、長期的に発展するための強固な基盤を築くとの見通しを示した。 「低空経済」の広がりに伴い、推進システム開発の競争が巻き起こっている。同社は中国国際航空航天博覧会の開催に先立ち、独自に開発したレンジエクステンダー式ハイブリッド推進システム「E300」を発表する方針を示した。3件の特許を持つE300は「向こう20年にわたって発展する航空業界の推進システム需要に応える革新的な製品」で、中国の民間企業がこのタイプのエンジン開発に成功したのは初めてだ。 許氏は「低空経済がより大規模に発展するためには、耐空性とコストがポイントになる。これを踏まえて当社は、海外からの技術導入や国内サプライチェーンの整備を進め、必要な耐空性を有するコストパフォーマンスに優れた航空機エンジンを開発している」と語った。 鴻鵬航空の創業メンバーは、航空機器の管理や研究開発に長年携わっており、エンジン技術と市場に対する造詣が深い。会社は欧州の二大航空機エンジン設計企業とも提携し、知的財産の購入や出資を通じて、最高レベルの航空機エンジン設計とEASA規格の耐空性を実現できるようになったという。 *1元=約21円で計算しています。