じつは局アナ志望ではなかった…草野仁が「一人前のアナウンサー」になるために実践した「大事なこと」
話し手として見本になる人の語りを聴く
もうひとつ心がけたのは、同僚であるアナウンサーの放送を一生懸命に「聴く」ことでした。 私が新人だった当時、NHKには全国に約600人のアナウンサーがいました。新人としては当然、「常に上手なアナウンサーとは、一体どういう人なのだろう」と関心をもちます。そこで私は、さまざまな地方局のアナウンサーのラジオでのアナウンスの声を録音して、聴き比べをしてみました。 そして、「うまい」と言われているアナウンサーの放送を聴いては「メリハリがとてもよく利いていて、聴く人に強い印象を与える話し方だなあ」とか「一つひとつの言葉をゆっくり、はっきりと言っているな」など、特徴を見つけ、自分なりに工夫し、いいところを取り入れていきました。 人の耳とは不思議なものです。600人あまりの同僚たちの声を聴き続けているうちに、ふと流れてきたラジオの音声から「これは山口放送局の、○○年入局の△△というアナウンサーだ」と、かなりの確率で声の主を識別できるようになりました。
なるべく多くの「伝え方」に接してみよう
放送の仕事をしているから当然とも言えますが、それほどに、自分の耳の「聴く力」が研ぎ澄まされていったのでしょう。 さらに続けていくうちに、評価を受けているアナウンサーのどこがいいのかだけでなく、ここを直すともっと上手になる、といった点まで判断できるようになっていきました。 アナウンサーに限らず、「この人の話は聞きとりやすいな」とか「あの人のような話し方がしたい」と感じた人の話し方に耳を傾けてみると、何か自分に取り入れられそうなことがきっと見つかるのではないでしょうか。 ポッドキャストやYouTubeに登場する語り手の方の中にも、独特の感性をもっていて、非常にうまい伝え方ができる人がいます。「なるほど、こういう言い方もあるのか」と発見することもありますから、なるべく多くの「伝え方」に接してみるのは必要だと思います。 私は、同僚たちの放送をたくさん、一生懸命に聴いたことが、自分自身の向上のために役立ったという気がします。
草野 仁(キャスター)