【災害への備え】いわきの経験生かして(10月11日)
いわき市内郷地区の住民調査で、昨年9月の台風13号に伴う豪雨で避難した世帯のほぼ半数は危険が差し迫ってからの「切迫避難」だったことが分かった。調査を担った東北大や福島高専の災害検証チームは、情報発信や避難所の改善などを求める報告書を市に提出した。命を守る迅速な行動につながるよう、市は幅広い対策に生かしてほしい。 調査は今年4~5月、内郷の中でも被害が大きかった地域の3099世帯を対象に行い、1726世帯から回答を得た。避難したのは全体の11%で、自宅が浸水被害を受けたのは36%だった。避難者のうち、「家の近くに水が来ていた」や「家の1階に水が来ていた」という状況をきっかけにした切迫避難が半数近くの48%に上った。 切迫避難が多かった一因として、検証チームは県内で初めて発生した線状降水帯による急激な降雨を挙げている。線状降水帯を理解している住民は5%にとどまった。切迫避難をした人は他地域や避難所などへの「水平避難」ではなく、自宅の2階以上への「垂直避難」が多い傾向も浮かび上がった。災害情報は可能な限り専門用語を使わずに分かりやすく伝え、事前の水平避難を促す工夫が求められる。
市内で関連死を含め14人が犠牲になった2019(令和元)年の台風19号による被害発生から、12日で5年が経過する。地域によっては自主防災組織強化などの対策は進む一方、「自宅には被害がないだろうと思った」との理由で避難しなかった人が多いことも分かった。災害に対する心構えが十分に整っているとは言えない現状がうかがえる。プライバシー面の不安から避難所の利用をためらう例も多いとみられ、検証チームはパーティション設置に努めるよう求めている。空き教室の活用などを含め、住民の不安を和らげる環境づくりを一段と推し進める必要がある。 能登半島地震の被災地を9月に記録的豪雨が襲うなど、災害は容赦なく暮らしを切り裂く。県や県内市町村にとっても対策強化は急務であり、惨禍を重ねたいわきの経験に学ぶべきだ。検証チームの調査結果を含む報告書は、市のホームページで確認できる。家庭での備えを充実させるため、多くの県民に目を通してほしい。(渡部育夫)