ガザ停戦のカギ握る? “暗殺許可証”を持つ、イスラエルの“世界最強”諜報機関「モサド」とは?「世界中にユダヤ人ネットワーク“サイアニム”を持っている」
渡辺氏は、約5年前までイスラエルに駐在。10人ほどのモサド元幹部に取材した経験から、「成功した作戦はなかなか表に出ず、失敗したケースが表沙汰になる」「現役の人は厳しいが、私が話を聞いたのは元長官。イスラエルは人口1000万人未満の小さい国で、ジャーナリストなどの紹介で比較的取材しやすい」と明かす。 小谷氏によると、「すべての省庁の仕事ができる“万能の組織”」と呼べるほど、モサドの守備範囲は広い。「日本には“外務省設置法”があり、法律で外交の仕事が定められているが、モサドには法的根拠がない。逆に言えば、首相が命じれば何でもできる」。
■モサドが最強たるゆえん “暗殺許可証”も?
モサド構成員の採用方法について、渡辺氏は次のように説明する。候補者は2~3年かけて、人格もチェックしながら選抜。試験では、試験官が「困ったらこの番号に連絡して」と伝えつつ、わざと仕込んだトラブルを起こす。しかし、そこで電話をかけてしまうと不合格になるという。 小谷氏は「基本的にスカウトで、志願して入ることはできない。他薦でしか入れない諜報機関はあとロシアだけで、どちらもダントツで能力が高い」と説明。「イスラエルは国民皆兵制で、誰もがいったん軍に入る。そこで目をつけられた人に声がかかる。格闘技や銃撃は重視されず、語学やコミュニケーション能力を見られる」「給料は普通の国家公務員レベルで決して高くないが、やりがいを求めて入る」という。 さらに渡辺氏は、「18歳の高校卒業時、能力で振り分けられて、インテリジェンスやサイバー分野に優秀な若者が配属されていく。軍での成績や人格的評価が推薦にかかわり、評価された人には招待状が届いたケースも聞いている」と補足した。
モサドが他の諜報機関と異なる点として、世界中にユダヤ人ネットワーク“サイアニム”を持っていることを小谷氏は指摘。「母国語のバックグラウンドが多様で、外国語ができる。使命感も高く、『命をかけないとイスラエルが危ない』との危機感が、モサドの人間に共有されている。その“必死さ”がクオリティーを高めている」とする。 また、モサドによる暗殺は、“レッドページ”と呼ばれる「殺害許可書」によって実行される。「モサドが暗殺する人のリストを作り、長官・首相の決裁を取る。かつてドバイでハマス幹部が殺害されたが、ドバイ警察は『首謀者はモサド長官とネタニヤフ首相である』と指名手配した。トップリーダーが知らないところで暗殺するほうが、諜報機関の暴走になるため問題だ。大抵の国は口頭でGOサインが出るのだが、イスラエルのように書類で形に残す国は少ない」。 特徴的な体制には成り立ちも関係すると、渡辺氏は解説。「ホロコーストを受けて生まれた、周辺国の情報収集に特化した組織。そのため、『同じことを他の人にやってはならない』との内部の声もある」とした上で、「『他者をよく理解するのが情報収集の基本だが、そこが昔より弱くなっている』と言う幹部や、『軍事に傾斜して、外交が弱まっている』との指摘もある。そういう冷静な見方があることは紹介したい」と伝えた。(『ABEMA Prime』より)