<BOX>20歳の新怪物誕生?!薮崎が88秒TKOで東日本フライ級新人王獲得
セレス小林会長が言う。 「とにかくパンチ力は半端ないっす。俺がこれまで見てきた中で指折り。堅いパンチ。これだけは、生まれ持ったもの。まだまだ将来、世界だなんてことを言うのも早いが、パンチ力だけなら世界チャンピオン級の破壊的なパンチ」 重いオンスのグローブを使うプロテストでも相手を3度倒した。伝説のハードパンチャーの一端を垣間見せてもらった。 そのパンチ力の源泉はいかに? 薮崎本人に聞くと「父もパンチ力があったと聞きます。そのDNAかもしれません」。父の賢治さん(48)は、元プロボクサー。賢治さん曰く「プロではたいした結果を残せていませんよ」と言うが、父譲りのパンチ力である。体格の割に手が大きく、拳の幅が見るからに広い。拳の面積がパンチ力に比例するという説を聞いたことがあるが、ハンマーパンチを振り下ろすような効果があるのだろう。 ボクシングと平行して小1から中3までは柔道をしていた。黒帯を取るほどの実力。パンチ力を生み出す体幹、フィジカルの根っこは、そこで鍛えられた。 薮崎の誕生日は、平成9年9月9日。 ジムの加藤トレーナーは「999(笑)。パンチ力だけでなく何かを持っている」と言う。 「ここで満足しちゃいけないんでしょうが、わが子が東日本新人王を取るなんて夢みたいです。決してエリートじゃないのに……感動しました」 リングサイドで応援した賢治さんの言葉通り、薮崎は決してボクシングエリートではない。父が、小林会長に、キッズボクシングを薦められて、セレスジムに入門したのが小2。 「ボクシングが面白くて仕方なかったんです」と、薮崎は言う。 中1のとき、U-15の大会で優勝したが、高校進学後は、関東大会準Vが最高記録で全国大会での実績はゼロ。おまけにプロデビュー戦は、この日のライトフライ級の決勝に進んでいた亀山大輝(ワタナベ)に判定で敗れるという黒星デビュー。さらに第2戦も引き分けた。 「一つ下のライトフライだったので減量がつらかったこともありますが、リングに上がるとテンパってしまっていたんです。セコンドの声もまったく聞こえない。笑っちゃうほどの大失敗です。2戦目も、まさか(笑)の引き分けです」 プロの試合で使う小さな8オンスのグローブが怖かった。先輩が拳を痛めたという話も聞き、殴られるのにも、殴るのにも不安があった。 「でも周囲の人たちが、がんばれ、これからだ!と応援してくれたので気持ちが折れることはありませんでした」。どん底の再スタートから3連勝を飾る。 「一個覚えると一個忘れちゃう。そういう性格なんですが、試合をする度に慣れてきたんです」 遅咲きの新怪物がついに目覚めた。これで4勝(3KO)1敗1分。 セレス小林会長が、「不器用なんです。そこが僕と似ている(笑)。ひとつひとつしかできない。アマチュアで勝てなかったけれど、薮崎はプロ向きなんでね。ようやく新人王の予選から距離感をつかみはじめた。これまでワンツーのツーが当たる距離で、ボクシングができていなかった。試合をこなしながら距離とタイミングをつかめてきたのが大きい」と、急成長の理由を説明してくれた。