『スター・ウォーズ』日本初公開日記念!その誕生の裏側を河原一久が読み解く【全4回―④】
「スター・ウォーズ」登場でさらに広がったSF映画市場
いずれにせよ、多くのSF&ファンタジー作品の中で展開されていた「センス・オブ・ワンダー」の数々をルーカスが換骨奪胎していったことは間違いないだろうし、これがやがて「スター・ウォーズ」として結実することになった。そしてその後はルーカスが生み出した「スター・ウォーズ」が逆に世界中に多大な影響をもたらしていくことになる。 2017年、リュック・ベッソン監督が『ヴァレリアンとロールリンヌ』を映画化した「ヴァレリアン 千の惑星の救世主」が公開された。画面の隅から隅まで凝りに凝ったこの作品は実にウイットに富んだフランスらしいSF大作で、すべての観客を魅了する美しい美術デザインも含めて、まさに「バンド・デシネ」が生んだ新しい映像作品となっていたが、これも1977年の「スター・ウォーズ」の歴史的成功によって切り開かれたSF映画という市場と、それに続く数々の技術革新がなければ実現できなかっただろう。 また、英語圏以外では「知らない人はいない」とまで言われる『アステリックス』も1999年からジェラール・ドパルデュー主演で実写映画シリーズが作られているが、古代ローマ時代を描いた物語なのに、たびたび「スター・ウォーズ」のギャグが登場するのだが、これも「スター・ウォーズ」の持つ文化的な懐の広さゆえの結果なのだろうと思う。 余談だがこのシリーズはフランス映画界で記録的な製作費をかけて製作され、記録的なヒットを続けてきたのだが、毎回豪華なゲストが出演し、バカバカしいコメディを真面目に演じているのが面白い。第1作「アステリクスとオベリクス」にはカエサルの副官としてイタリア人俳優のロベルト・ベニーニが、第2作「ミッション・クレオパトラ」(2002年)ではモニカ・ベルッチ、第3作「アステリックスと仲間たち オリンピック大奮闘」(2008年)ではカエサル役にアラン・ドロンが登場。 また、戦車競走の場面ではほとんどフェラーリにしか見えないドイツのチームが出場するのだが、戦車を駆るのは元F1王者のミハエル・シューマッハで、チーム監督をなんとフェラーリ時代の監督ジャン・トッドが熱演していて、F1が好きな人には堪らない場面となっている。他にもサッカーのジダンなど世界各国の著名アスリートがカメオ出演している。第4作「アステリックスの冒険~秘薬を守る戦い」(2012年)にはカトリーヌ・ドヌーヴが女王を演じ、最新作「アステリックスとオベリックス ミドル・キングダム」ではカエサルをヴァンサン・カッセル、クレオパトラをマリオン・コティヤールという顔ぶれになっている。原作は全世界で3億5000万部以上を売り上げたという国民的コンテンツなだけに、これだけの予算とこれだけのキャストを集められるものだと、バンド・デシネの底力を見せつけられた思いである。本書によってスター・ウォーズとバンド・デシネに興味を持った方は、ぜひご覧になってみることをお勧めする。 文=河原一久 制作=キネマ旬報社
「ルーカス・ウォーズ」
【著者名】ロラン・オプマン 作 ルノー・ロッシュ 画 原正人 翻訳 河原一久 監修 【定価】4,620円(税込) 【ISBNコード】978-4-87376-491-7 【判型・頁数】A4判/208頁/書籍 【刊行年月】2024年5月