ラグビーコラム BL東京が優勝ならMVPはSOモウンガだ 攻撃力だけではない危機管理能力の高さにも注目
【ノーサイドの精神】リーグワン決勝(26日、国立競技場)は、埼玉とBL東京の顔合わせとなった。レギュラーシーズン1、2位による、順当なカードといえそうだ。 BL東京は、最後にトップリーグを制覇した2009年度以来、実に14季ぶりの頂点へあと1勝と迫った。今季は14勝1分け1敗でレギュラーシーズン2位。唯一敗れた相手が埼玉(第9節に24-36)で、決勝は雪辱戦の意味も持つが、ここまでチームを押し上げた立役者の一人がSOリッチー・モウンガだといっても、異論はないだろう。 トンガとサモアにルーツを持ち、ニュージーランド代表キャップ56の29歳(5月25日で30歳になる)。176センチ、83キロと日本人と変わらないサイズながら、存在感は絶大だ。昨年のW杯フランス大会は惜しくも準優勝だったが、パスワークに加え、ラン能力が高く正確なキックパスも大きな武器。キッキングゲームにもたける世界的司令塔だ。 ただ、彼のすごさはアタックだけではない。現代ラグビーでは、SOは相手キックへの対処や、体が大きくない選手が多いこともあって、守備の際はエッジと呼ばれるタッチライン際に位置どることが多い。エッジには機動力のあるFLやNO・8を攻撃時に配置するチームも多いため、SOが相手の大型FWとマッチアップするシーンはよくあるのだが、モウンガが1対1で負けたところを見たことがない。 5月19日のプレーオフ準決勝・東京SG戦でモウンガは、206センチ、118キロの相手LOハリー・ホッキングスと2度、1対1の場面があったが、いずれも低いタックルで止め切った。さすがと思わせたのはハイボールの処理。この試合、東京SGはBL東京の弱点といえるタッチライン際へのハイパントを多用した。前半はとまどっていたが後半、モウンガがエッジに立つと、ほぼ完璧に処理した。 際立つのはジャンプのタイミングの正確さと高さだ。少し早めにも見えるタイミングで跳び上がり、精度の高い捕球技術を発揮する。相手に先に跳ばれた場合、タイミングが遅れて空中で接触すると遅れた方がペナルティーをとられるため、そこの勝負は常にモウンガが優勢になる(ただ一人、東京SGの南アフリカ代表WTBチェスリン・コルビだけは、モウンガとドンピシャのタイミングで跳んで、空中で競り合った。こちらもさすがだった)。危機管理能力の高さは、世界的に見ても頭一つ抜けているだろう。 常にチームファーストで仲間を引き上げようという姿勢、取材に対しても嫌な顔せず真摯(しんし)に対応してくれるなど、人間性も抜群だ。BL東京とは3年契約(ニュージーランド協会が早期放出を望んでいるという噂もあるが)で、チームに与え、今後も与え続けるだろう好影響は計り知れない。
ファン目線で見ても、今季の楽しくて面白いBL東京のラグビーのほとんどを構築しているのがモウンガだ。首尾よく埼玉を破り優勝したら、文句なしのMVPに選びたい。いや、優勝しなくても。(田中浩)