妻が認知症に、裏山で叫んだ夫の後悔 「気持ち打ち明ける場必要」芽生えた介護者の支え合い
認知症の家族を介護する人々の居場所づくりが京都府福知山市三和町で進んでいる。妻を長年介護する男性が、自身の反省から集う場を設けた。参加人数が増える一方、男性や参加者の高齢化、他地域での開催の要望が出ている。継続的な集いの場への支援について市が模索を始めた。 小林英夫さん(91)=三和町大原=が2021年5月、同町内で認知症の人を支える家族が集う会を立ち上げた。三和支所(同町千束)で月1回、互いの介護の近況や悩みを共有している。当初は数人だったが、今では10人ほど集まる。 17年前、小林さんの妻・冴子さん(89)に認知症の兆候が見られたという。家族の指摘を受け入れられず、「自分が元に戻してやるんだ」と一人で妻と向き合った。 財布を家の中でなくしたり、直前の会話内容を覚えていなったりする妻にいらだちが募った。「何でできないんや」と厳しい口調も増えた。近所を徘徊(はいかい)するようになったのを機に、近隣住民に打ち明けて理解と協力を仰いだ。 「認知症に悪いイメージを持つ人も多く、知られるのが後ろめたかった」と小林さん。「もっと早く医師の診断を受けていたら、症状を抑えられたかもしれない」と後悔している。 介護のストレスや不安を軽減する術として、毎日のように自宅の裏山で叫ぶしかなかった。誰にも相談できない孤独を抱え、「気持ちを打ち明ける場が必要だ」との強い思いが、集いの原動力だ。 10月上旬に開かれた会合には、親や配偶者を介護する男女11人が参加した。初めてでも話しやすいよう心がけ、話を外部へ持ち出さない▽批判はしない▽他人の話は集中して聞く―などルールを決めている。 「ショートステイを利用するようになり、ようやく私も眠れるようになった」「その日の気分でデイサービスに行きたがらず、自分への依存が強まっている」。それぞれが思いの丈を吐露し合った。 小林さんは、集いの運営に市の関わりを強く求める。自身も90代で、参加者の高齢化も進んでいる。「もう少し近くで開いてほしい」「車の免許がない。行きたいけど行けない」という声も届き、現状に限界を感じる。「せっかく着いた火が消えてほしくない」 一方、市は本年度、半年に及ぶ認知症の連続講座を初めて催している。月1回、当事者や医師らによる講演後に介護家族の交流会などを開いている。 連続講座を通じ、「民間の当事者団体が家族の交流支援に当たるべき」という市の従来の姿勢が変化してきた。 会場から「想像以上に集う場を求める声が多かった」と市地域包括ケア推進課。自身も義父を在宅介護中で、当事者として参加した福祉保健部の柴田みどり部長は「気持ちを吐き出したり、共感したりする場の重要性を改めて感じた」と話す。参加者の多くが高齢だったことを踏まえ、家族交流会の開催に市が積極的に関わることも検討していく。 全国的な当事者団体の「認知症の人と家族の会」の京都府支部が今回、連続講座に共催した。同支部の河合雅美代表は「次年度以降も集いの場を作ってほしい」と活動の広がりに期待を寄せる。