【海外トピックス】ステランティスの対中国戦略が賢明かもしれない理由
ドイツ勢も中国産モデルを逆輸入
実は今回のステランティスと似通った戦略を、ドイツプレミアムメーカーのメルセデス・ベンツやBMWも採用しています。メルセデスは、2020年に吉利汽車との合弁として「スマート」ブランドを一新して、小型で量販価格帯のEVである「スマート#1」や「スマート#3」を欧州に逆輸入を始めており、BMWは2018年に設立した長城汽車との合弁会社で、北京モーターショーで発表したMINI「エースマン」の生産を開始し欧州に輸入します。製造コストが安いだけでなく、デジタルコクピットや自動運転、さらにはモーターや電子制御のシャシー技術においても中国勢は目を見張る躍進を遂げており、製品の開発においても協力することは避けて通れなくなっています。
中国勢にも自国市場をパスする動きも
中国市場の熾烈な競争に耐えられる自動車メーカーは限られています。その証拠に、同国の新興NEVメーカーの中には、中国での販売は止めて海外市場に主眼を置くところも出てきています。2017年に江西省に設立されたAiways(愛馳汽車)がその一つです。同社は、テンセントや車載バッテリー最大手のCATL、ライドシェアのDiDiなどの出資を受けて、これまでにU5とU6という2つのミッドレンジのEVを発売しており、実は欧州に最初に上陸した中国車ブランドです。資金難でこの一年は生産を停止していましたが、今年中にニューヨーク証券取引所に上場する計画で、本部をドイツに移し、当面欧州市場に注力する方針です。 不動産不況に起因する経済の停滞や地政学的なリスクから中国への投資を控えたり、サプライチェーンの見直しをする企業が増えています。自動車においても、eアクセル大手のNidec が中国向けの生産を絞ると表明するなど、熾烈な競争と薄利のビジネスに耐えかねて戦略の見直しをする企業が今後さらに増えていくでしょう。 世界販売における中国の比率が35~40%に達するドイツの自動車メーカーは、これ以上の凋落を防ぐために一層中国にコミットするのは無理もないとしても、長年不動のNo.1だったVWでさえトップ3メーカーに残るのが目標と公言する中、GMやフォード、そして日本の自動車メーカー各社が、今後シェアを維持するのは容易ではありません。中国市場の「血の池」の販売競争からは距離を置き、力のある中国メーカーとの提携で欧州のみならずインドや南米、中近東・アフリカなどの将来の市場に備えるステランティスの戦略は、中国対応に苦慮する日本メーカーにも示唆を与えているかもしれません。(了) ●著者プロフィール 丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在をへて、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意-混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年 ヴイツーソリューション)がある。