【浜通りの新年】復興へ手を携えて(1月3日)
東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で傷ついた浜通りを歩くと、景色がまだらに見える。つち音響く再開発現場もあれば、時が止まったままのような荒れ地も多い。年始の人々の往来は、市町村や地域によって様子が異なる。明暗併せ持つ現状への理解を広げ、豊かな生活環境を築く新年でありたい。 避難住民の帰還開始が遅れた原発立地町を中心に、駅周辺の再開発が進む。大熊町の産業交流・商業施設は3月に全面開業し、双葉町では新年度にスーパーや飲食店が営業を始める。バイオエタノール燃料(大熊町)、蓄電池(楢葉町)、ロケット(南相馬市)など、産業創出に向けた成長分野の開発拠点づくりも前進している。福島国際研究教育機構(F―REI、エフレイ)については、浪江町に整備される本部施設の完成目標が2028(令和10)年度と示された。 福島第1原発の最難関の廃炉作業は、溶融核燃料(デブリ)の試験的取り出しが始まったばかりだ。帰還困難区域は今なお残る。再生には遠い住宅地や商店街も点在する。にもかかわらず、政府の行政事業レビューで復興支援の見直しを求める意見が取りまとめられたのは、震災・原発事故に対する意識の風化を示したと言える。次期エネルギー基本計画の原案で原発回帰の姿勢が鮮明にされたのも、風化の表れではないか。
施設の充実などを帰還や移住につなげ、復興のまだらを埋めるには、点を線で結び、面に広げる取り組みが不可欠だ。各市町村には人材の育成・確保、地域医療の再生など共通の課題も多く、これまで以上に力を合わせて解決に臨む必要がある。 今年の大阪・関西万博では、原発事故で避難区域が設定されたり、津波の被害を受けたりした15市町村が5月に出展する。国内外から人材を呼び込む視点で最先端の産業や食、農などの魅力を戦略的に発信してほしい。 15市町村を舞台にした自転車のツール・ド・ふくしまが昨年初めて開催された。コースの多くは、県などが東北初の指定を目指すナショナルサイクルルート(NCR)の経路案と重なる。インバウンド(訪日客)を含む愛好者が集う環境づくりも、手を携えて進めたい。(渡部育夫)