「ダンヒル」は“英国らしさ”を取り戻して王道回帰 買い足し、自由に着こなす男性の自信を表現
素材も、英国らしさ満載だ。ヨークシャーやサセックス、サマセット、ビエッラなどの工場で開発した素材は、ソルト&ペッパーやヘリンボーンウイーンドーペンから、スチールグレーにキャメル、ネイビー、チョコレートブラウンなど、色と柄においても英国らしさ満載。前任の時代に比べ、明らかにワンランクアップしている。
前任のマークとの最大の違いは、サイモン本人が言う通り、「買い足すことで、自分らしさが表現できるタイムレス・ラグジュアリー」への転換だろう。モードは、流行り・廃りを避けては通れない、良い意味でも悪い意味でも一過性の要素が強い。そこでサイモンは、上述の通り“英国らしさ”に傾倒して、普遍的なアイテムを自由に楽しむスタイルを提案。端的に言えば、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」や「ディオール(DIOR)」のようにストリートやフェミニンなムードさえ取り入れるモードな路線を改め、「ロロ・ピアーナ(LORO PIANA)」や「ブルネロ クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI)」のようなMDにシフトすることで、トレンドセッターではないものの、審美眼のある男性に改めて近づこうという戦略が見て取れる。
考えれば、新生「グッチ(GUCCI)」も同様のスタンスで新章の幕を開けたし、トレンドセッターと称される「プラダ(PRADA)」や「ミュウミュウ(MIU MIU)」さえ、紐解けばニットやカーディガン、リナイロンやレザーのアイテムを常に打ち出し、こうしたアイテムを自由に、その時々で楽しむスタイルを提唱して市場を拡大している。ドラマティックな変化は訪れにくいのかもしれないが、「ダンヒル」の新たな一歩は、2020年代のラグジュアリーの在り方をより一層明確に定義づけた印象だ。