キヤノンの「トップ技術者」は科学誌『ネイチャー』にも選出 超高感度性SPADセンサー開発の35歳
──学術界でも注目されているキヤノン独自のSPADセンサー開発の中心人物が森本さんだと聞いています。開発のきっかけを教えてください。 CMOSセンサーの開発を通じてその原理を理解していくにつれて、次のように考えるようになりました。 画素の持つ感度については、入ってきた光を80~90%ほどの精度で検知することがすでにできていました。100%を超えることはないので、どれだけ伸ばしてもあとプラス10%くらい。
つまり感度という点でCMOSセンサーは非常に完成度が高い。センサー自体は進歩すると思いますが、技術をこのまま伸ばしても天井がある。それならばまったく違うアプローチで切り込んだほうが限界を超えられる、と考えました。 天井を打ち破るには何をすればいいか調べているうちに、SPADセンサーに出会いました。SPADセンサーの特長は超高感度性と超高速性です。画素が光の粒子をとらえると、光の粒子によってつくられるわずかな電気信号の変化が瞬時に増幅される仕組みのため、光の粒子をいつ、何個とらえたかを正確に把握できます。
キヤノンの中で「SPADセンサーを開発しよう」と最初に言ったのはたぶん私で、いうなれば言い出しっぺです。当時は誰もSPADセンサーを知りませんでしたが、自分なりに論文などで勉強して、技術についてまとめて報告しました。 ■開発を発案し上層部を説得 ──CMOSセンサーで技術的な蓄積がある中、原理的に異なる技術に挑戦しようと周囲を説得するのは大変だったのでは? SPADセンサーの研究はヨーロッパを中心に2000年代前半頃から加速しました。ただ、1個の画素のうち光を感知できる領域が限られていることに課題がありました。そのせいでなかなか実用化しない、というのが2015~2020年頃までの状況です。
SPADセンサーにも課題があることを認識したうえで、「キヤノンが持つCMOSセンサーの画素の開発技術を転用するとSPADセンサーの課題も解決できる」というように、私ともう1人のメンバーで発案し上層部を説得しました。 説得すると、「キヤノンの技術を活かしてその課題を解決できるならまずは試作をしてみよう」という流れができた。本質的な課題を早い段階で見極めて、それを解決するアイデアをブレインストーミングし、試作で実証する、ということを長らくやりました。