松本紀保 舞台人としての原点を作ってくれた恩人への思い
歌舞伎俳優・松本白鸚さん(75)の長女で女優の松本紀保さん(46)。弟は歌舞伎俳優の松本幸四郎さん(45)、妹は女優・歌手の松たか子さん(40)という芸能一家の中、読売演劇大賞優秀女優賞を受賞するなど舞台を中心に存在感を発揮しています。プロデュース公演「Farewell」(東京・サンモールスタジオ、4月6日~15日)も手掛け、プロデューサーとしても活動を本格化させていますが、舞台人としての原点を作った恩人への思いを語りました。
こういう家に生まれていますので、歌舞伎座とか劇場にはよく行ってました。楽屋に行って父のお弟子さんに遊んでもらうということも多くて、遊び場まではいかないですけど、必ず行くところであり、劇場が生活の一部という感覚はありましたね。行けば、必ず弟もいますし(笑)。非日常的な場ではなく、身近に感じている場だったのは間違いありません。 ただ、自分が役者として舞台に立つという意識はなくて、結果的にデビュー作となったのが95年に上演された「チェンジリング」という舞台でした。そもそも、この作品をやるきっかけになったのは、父が出演していた舞台を私がスタッフとしてお手伝いしてまして、その舞台の演者さんから、舞台体験ができるワークショップを勧められたことでした。 せっかく言ってくださってるんだし、とにかく一回行ってみようと。ただ、これが行ったら、すごく楽しくて!そこから縁が重なって「チェンジリング」のオーディションを受けることになり、実際に出演することになったんです。 そこで出会ったのが演出を手掛けていたデヴィット・ルヴォーさんでした。私がこんなことを申し上げるのは不遜ですけど、すごく頭が良いというか、俳優さんの魅力を引き出す才能に長けているというか、アメとムチの使い方がうまいというか…。あんまりほめちぎるのも、逆に気持ち悪いですよね(笑)。
初舞台で何も分からない中、一から本当に丁寧に教えてくださったというのもありがたかったんですけど、今でも本当にすごいと思うのは、役者としてこちらをリスペクトしてくれたこと。表現者としてはゼロの状態。それなのに、こちらをきちんと尊重した物言いをしてくださる。その気持ちがうれしくてこちらも頑張ろうと思いますし、今、自分がプロデュース公演もやらせてもらうようになって、より一層、素晴らしいと感じています。 あと「台本を読むな」と言われたことがありまして。正直、当時はその意味が分かっていないところもあったんですけど、23年、経験を積み重ねる中で思うと、台本の中だけの世界に固執せず、台本の裏からにじみ出てくるものを大切にしなさいということだったんだろうなと。その大切さ、今は強く感じますけど、最初から本当に大切なことを教えてもらっていたんだなと思います。初めて出会った演出家が彼だったというのは、本当に幸せなことだったなと。 面白いというか、不思議だなとも思いますけど、10年前には自分がプロデュース公演をやるなんて思ってもいなかった。「自ら立ち上げて、やっていくぞ!」なんて性格ではないのは自分がよく分かっていますし(笑)、まさかの流れですけど、いろいろなご縁が重なって、4年前に第1回プロデュース公演をさせていただいて、今回が2回目。1回目がそうだったんですけど、終わってみて振り返ったら「自分でも、よくこんなことをやったな…」と思うところもあったんですけど、今回またやってますからね(笑)。分からないものです。