一流大学卒・一流企業入社するも、「転職」を繰り返した「高学歴難民女性」の悲しき末路
拙著『高学歴難民』(講談社現代新書、2023年)では、主に博士課程まで進学したがその後の道が開けず、ニートやフリーター生活を送る人々に焦点を当てた。 【写真】勝ち組だった「元CA」が採用面接で面接官に言われた「衝撃の一言」 本稿では、一流大学卒業後、一流企業に就職し、将来を期待されていたはずの女性が、転職を繰り返し高学歴難民となってしまった人生に迫りたい。 プライバシー保護の観点から登場人物の名前はすべて仮名とし、個人が特定されないようエピソードに若干の修正を加えている。 「『高学歴難民』という言葉を知って、真っ先に娘の事を思い出しました」 伊藤英子(70代)の長女・由紀は、難関国立大学を卒業し、東京の大手商社に入社した。 「娘は内定をもらったとき、“夢みたいだ! ”って飛び上がって喜んでました。親としても嬉しかったのですが……、内心、女性には大変な職場じゃないかって心配もしていました」
“アイドル”だった学生時代
高校時代、由紀と同じバレー部に所属していた親友の啓子(40代)は、エリートコースを歩み始めた由紀の姿を眩しく感じていたという。 「普通の女性では無理な職場でも、由紀のパワーと人柄なら絶対に大丈夫だと信じていました。同級生たちはみんな、いつか由紀は政治家になるんじゃないかって噂してましたから」 由紀は小学生の頃からバレー部に所属し、大学までキャプテンを務めていた名選手で仲間からの人望も厚かった。 「あの頃のスポーツの世界って練習は過酷だし、先輩後輩の人間関係も厳しくて、すぐに辞めてしまう子が多かったのに、あの子は本当に根性があるって監督に褒められていました」 由紀の人柄について、 「由紀はエリートとか、キャリアウーマンっていうお堅い雰囲気はなくて、豪快な 姉後肌です。女子にも男子にも好かれてました」 啓子が持っていたバレー部時代の写真に映る由紀は、まるで昭和のアイドルのように可愛らしく輝いていた。 「東京の商社に入社した年の連休、実家に帰ってきた由紀を見た時は、本当にあか抜けていて、芸能人みたいでした。由紀もドラマの主人公になったみたいだって嬉しそうでした」 将来を有望視されていた由紀だったが、その輝きは徐々に失われ、戻ることはなかった。 由紀は定期的に家族と連絡は取っていたものの、仕事が忙しいと年末年始も実家に戻ってくることはなく、英子が由紀の姿を見たのは二年後だった。 「この時の由紀は、げっそりと頬がこけて、まるで別人のようでした。病気でもしたんじゃないかって聞いたんですが、健康診断で異常はないからって……」 それから半年後、由紀は商社を退社し、実家に戻ってきた。 「東京の生活に疲れたから、しばらくこっちにいたいって……。昔はとにかく活発な子だったので……、変わり果てた姿を見て親としては心配でした」 由紀は地元の新聞社に再就職したが、啓子の話では、由紀にとって働きやすい環境ではなかったようだ。 「オジサンばっかりの職場で、“女の幸せは結婚”みたいな価値観の人が多いって話してました。田舎だから、由紀には物足りなかったんじゃないですか。東京に戻りたいっていつも言っていました」 由紀は、地元の出身大学の大学院に通うようになり、新聞社は数年で退社することになった。その後しばらく学生生活を送り、学位を取得してからは、再び上京して就職活動を始めた。