「武道・武術は生命保険みたいなものです」親が子どもに見せたい格闘道"敬天愛人"を主宰する菊野克紀選手インタビュー!
武道・武術を「見て面白い」「やって面白い」という文化にしたいと日々取り組む菊野克紀選手。主宰する『敬天愛人』は勝ち上がりの格闘技大会とは一味違う雰囲気で運営される。どんな想いが込められどんなイベントになっているのか、お話をお聞きしました! ――まず大会名に「愛」という漢字が入っているところ、まずここで少し違う印象を受けますね。 「「敬天愛人」という言葉に関しては、天を敬い人を愛するとその通りなんですよね。僕、鹿児島出身なんですが、西郷隆盛が好きな言葉、作った言葉ではないんですけど、西郷隆盛が大切にしていた言葉で結構鹿児島では親しまれているんです。鹿児島では本当にいろんなところに飾ってあって、想いを込めた大会を開催するってなった時にこの言葉しかないかなと。その言葉通りのものを作っていきたいなって思ったんですよね。」 ――今回で六回目、第一回は2018年ですね。 「第一回の前ですね。前身というか。今となっては僕の最後のプロ興行になってるんですけど、僕の半生をかけた大会を鹿児島で開催したんですね。その後にアマチュア大会の第1回が2019年かな。」 ――最初のころは勝ち上がりの格闘技大会のつもりで参加される方も多かったと想像します。 「そこらへんよく分かってない人もいたと思います(笑)。趣旨は伝えましたけど最初は分からなかったかもしれないですね。」 ――体格や技術、経験値などなど、細かく擦り合わせて試合を組んでいかないといけませんよね。柔術の大会はそれを徹底して広く浸透したといいますし。 「アマチュア大会っていうのは基本そうなんじゃないすかね。やっぱり次の日仕事があるという前提で、そこに人生掛けてるわけじゃなくてあくまで人生を豊かにするためというか、日々の活力であったり潤いのためにそういう格闘技とかスポーツをされてるので。あくまでケガはしないというか安全に行うことが大前提というのを僕も大切にしてますね。」 ――我々おじさんからすると18歳の若者なんかは元気も元気で。練習でさえも手加減なしですよ(笑) 「そうですね、試合は手加減しちゃいけないですからルールで縛らないといけませんし、やはり練習の時もルールとかテンションを合わせないとそれこそ怪我が起きます。そこは僕が大会の代表として十分にルールとテンションを共有することが大事です。例えば片方がオラオラだったりするとなんか変な試合になっちゃうんですよね。みんなが「敬天愛人」の精神、「親が子どもに見せたい格闘道」の精神を共有することを大前提にしないといけない。」 ――そもそも「相手をやっつける」目的ではなく「自分、大切な人を守る」が目的であると以前からおっしゃっています。 「稽古の一環の場でもありますね。競技として全力で勝ち負けを競うのですが、それはあくまでイザッという時のための稽古であるという認識でルールを全26種目作っています。人それぞれ目的が自己表現のためだったり修行のためであったり自由なんですけど、運営側のルール設定や趣旨としては、そこをしっかり出しています。」 ――これまでとの違い、アップデートされた内容はあるんでしょうか。 「常により良い楽しい場を作りたい、安全で楽しい場を作りたいってことあります。今回新しい試みとしては、アマチュア試合で言えば一つルールが増えてちょっと過酷と言うか。もちろん防具つけての話なんですけど目つき・金的が解禁されたルールがあり、それと本気で殴るルールは今まで別試合として行ってたんですね。なぜなら、本気で顔を殴っていいのに金的だけ寸止めっていう、そのガチ当てと寸止めを同時に行うことって非常に困難なんですよ。選手はものすごいアドレナリンが出てるのでコントロールが難しい。」 ――全力でやるものの一部手加減ってことですもんね。 「なんですけど、今回はもう一緒にやるチャレンジというかですね。金的は3重ファウルカップでしっかりガードして本気で蹴っても大したことにはならない。顔もフルスイングしてもいいし、目つきもポイントを取る、もちろんフェイスガードします。頭突きもフルでやってもいいと。防具をつけてるところであれば本気で急所を狙ってもいいというルール、今回初挑戦ですね。どうしてもガチンと当て良いルールでは目突き・金的がない、それもまた戦いとしてはすごい不十分だし、目突き金的ありでもガチンと当てたらいけないってのもやっぱ不十分なんですよね。」 ――なかなかチャレンジングなルールですね 「かといって防具つけたらまた違うものになっちゃうんすけど、できる範囲で調整しながら新たなルール、26番目のルールを作りました。プラス、今回はプロの試合という枠組みを。アマチュアの大会ってのは出場料をいただいて試合に出てもらい安全第一で行うと。プロの定義ってのはいろいろあると思うんですけど、今回は出場料をいただかずに、こちらからファイトマネー、少ないですけどファイトマネーを出し、防具をつけずに戦うと。ファールカップ、グローブはするけどヘッドギアみたいなものは付けないと。怪我のリスクが上がるがその上でやっていただける方を募集した際に手を挙げてくださる方がいたので、プロの試合を3試合」 ――参加者の方もそれを間近で見れるのはいいですね。 「結構激しくなると思います。皆さん実力者揃いなんで、本当に。一般的なキックボクシング、総合格闘技のプロレベルの人たちがいっぱいいますからね。」 ――ちょっと話変わるかもしんないすけど30年少々前に総合格闘技がばーっと盛り上がって日本中にジムが出来て、プロアマ問わず日本中に軽量級の強い選手がいっぱい誕生しました。街中で一方的に突っかかってる人見るとちょっと怖くなるんですよ。あなたがわーわー突っかけてるのに物怖じしないその人、ひょっとしたら軽量級のランカーかも知れませんよって(笑) 「強くなると自信ができるのでちょっと穏やかになるというか寛容になるってあると思うんですね。それが抑止力としてまず争いが起きなくなればいいですし、そういう意味で強いおじさんたちがいっぱい増えたらいいなって思います(笑)」 ――おじさんが世の中を平和にするという(笑) 「持ってないと人に分け与えるとかできないですもんね。自分の子どもがお腹空かせていたらお腹空かせている他人の子どもにご飯をあげられない。自分を満たすってのがまず大事だと思いますんで、そういう意味でやっぱり強くあるってのが一つのね、大事なことだと思います。」 ――自分を満たす、自信をつけるということですね。 「僕自身がそうだったんで。それまで僕が自信ないときはやっぱり人間関係がすごく下手くそで楽しくなかったんですけど、自信がつくにつれて人間関係が良くなり、すっごい楽しくなったんです。今「誰ツヨDOJOy」と「こどもヒーロー教室」でみんなを強くしていますが、やっぱりそこを共有したいなって思いますね。「自信つくと楽しいぜ」って。」 ―――例えばサッカーだと、自分ができるようになるとチーム内でも声がけするようになりますもんね。パスも繋がるようになるしオフェンスもディフェンスも機能し始める。 「はい、人を応援できるようになりますよね。これ自分が自信ないとね、ちょっと人を落としちゃったりとかですね、いろいろ起きますね。逆に自分を落としてしまったり。」 ――ああ~、自分を落とすのも良くないことですね。 「たくましく自信をつけてもらいたいなと思います。そういう強くなることで優しくなるというか、守れるようになるというか。自分が使う使わないは置いといて武器ですよね。武器を持ってるという自信が大事だと思うんです。「使えない」のと「使わない」とは意味が違いますから。使えると分かってて使わないのはものすごく穏やかに対応できるので、使えないともうおどおどしちゃって逆にね、喧嘩になっちゃったりする。」 ――刺傷事件とかもナイフの使い方なんか分かってないからやりすぎてしまったり。 「ちょっとだけそういう練習をしておくと、ちょっとだけ冷静にね、対応できたりするかもしれない。その怖さもわかるんで、全然これじゃ守れねじゃんってことも分かって無理に行ったりもしない。」 ――もし「ナイフ持って大声出してる奴がいる」みたいなシチュエーションに出くわしたらサっと離れます(汗) 「そこに自分の子供がいたときにどうすんのってことですよね。子供が捕まった時とか、守らなきゃいけない時、そこの準備だけしとけば冷静にね、対応できるんじゃないかと。最悪の想定をしておくという。生命保険と一緒ですよね。別にね、事故とか病気を起こしたくないけど、起きちゃったとき用に一応準備しておくと、ちょっと日々が安心して過ごせるみたいなところありますよね。」 ――想定しておくのもまた大事ですね。若者たちもスマホによって手元にコンテンツが充実してる環境で、見て満足しないで体験してほしいですね。体験してこそ分かるってありますし。 「そうだと思います。うちの子たちもやっぱね、本当にゲームをずっとしちゃったりだとか。スマホっってやっぱり道も覚えなければもう記憶する必要もないし、極端な話勉強もする必要ないというか、(スマホを手に取って)もうこいつが全部知ってますもんね(笑)」 ――例えば日光東照宮なんて映像で見て「綺麗だな~」は分かるんですけど、行ってみるとあの何とも言えない雰囲気、エネルギーを感じるというか。 「体験、リアリティですね。想像だけでも動画見たりだけでも足りないし。稽古するのもそうで、稽古は稽古なんですよ。試合ってなると相手もまた必死ですから、よりリアリティが高まる。また試合と実戦ではまた変わってくる。リアリティをなるべく寄せて行くっていうのは大事ですよね。」 ――言われてみると試合も「本番」とは違いますね。 「試合を目的にしてる人はそれで良いんですけどね。我々はこっちが目的なんで、いざって時。競技脳の方は試合のことを実戦って呼んだりしますけど、我々はそうではないので。試合は稽古であり表現ですね。」 ――以前「巌流島」に出場された時(2016年10月)、小見川選手に場外に投げ落とされたことについて「ここが崖だったら死んでました」と。 「小見川さんと試合したときに巴投げで場外に落とされたんですよね、先に落とされた。なんか試合には僕勝ったんですけど勝負に負けたというか。先に落ちてるんでもしこれが崖、階段、ガラスとか場所が場所なら『俺、死んでたな…』ってそういう気持ちになりました。」 ――武道家の考え方というかあのコメントは凄く印象に残ってます。今回参加される達人、先生方といいますと。 「ミニセミナーとして大東流合気柔術の古賀武光先生、阿部勝利先生は決定しています。ほしみん(浅井星光)先生が「英雄傳」って映画を撮影されてて多くの先生方がそこにキャスティングされてるんです。皆さんお忙しくされていますのでそれが終わってからの方が調整がつくかなと。」 ――もうファンには「ほしみん」が浸透してますけど、確実にコ〇せる技をお持ちの達人ですよね(汗) 「そうですね、その余裕があるからこそ普段はニコニコされてて素敵な方なんですよね。今回特別企画として、先生方の手形、僕は拳を取ったんですけど、ふくらはぎや自分のことを表現する部位を手形だったり石膏だったりを展示する企画も行います。」 ――じっと見てられそうなコーナーなりそうです。すぐ11月には「敬天愛人EXPO Vol.2」が控えていますがこちらの体験チケットせ もセット販売されていますね。この体験チケットというのは? 「前回は合気道を教える方、効率的な走り方を教える方、養生法って言ってこうしたら人の体が健康になりますよとか、中国武術でこう槍の使い方とか、いろんな先生方にコーナーを持っていただきました。いろんなものを体験しましょうという企画なんですね。今回も自衛隊教官の方もブースを持っていただけるので匍匐前進(ほふくぜんしん)の身体操作とかあるかも…。」 ――確かに匍匐前進はなんであんなに速いのか知りたいです。 「凄い先生方がいっぱいいますよ!いろんなものが一気に体験できる。その中からもっと習いたいなって人が出てくれば嬉しいですし、見る方からやるほうに橋渡しできるようになれば良いですね。」 ――今回が良いきっかけになるはず! 「子供に何かさせたいっていうのは、その先に幸せになってほしいってことがあるわけです。だから大人が幸せであることが大事だよねっていう。我々が元気に、幸せそうにしていることで「あ、子供にやらせたいな」って親御さんに思ってもらえる流れになったら嬉しいです。」 『第6回敬天愛人練武大会』 日時:9月7日(土) 開始:10:00 場所:東京・墨田区総合体育館 武道場 ▼プロフィール 菊野克紀(きくのかつのり) 1981年10月30日生まれ、鹿児島県出身。170cm、80kg。 武道家として『DEEP』・『DREAM』で活躍後、2014年にアメリカの総合格闘技団体の最高峰『UFC』にも参戦。武道エンターテインメント「巌流島」のエースとして活躍後、「親が子どもに見せたい格闘道」をコンセプトに「敬天愛人」を主催。 2020年からは、プロ格闘技の経験と武術の知恵を凝縮して「誰でも何歳からでも強くなれる」場として「誰ツヨDOJOy」を主宰。 聞き手:スレンダー川口(@slender_kg)