岡口判事の弾劾裁判にみる「制度の欠陥」 裁判員の国会議員、欠席や交代だらけ 出欠状況を総まとめ
●必ずしも出席しない予備員
出席率の低さを指摘したが、弾劾裁判の現場では、裁判員の出席について強い問題意識はなさそうだ。 たとえば、裁判員は全部で14人と決まっているが、山下貴司議員(衆・自民)が辞職したあとの、第12回公判と第13回公判は後任が決まらず、13人体制だった。 裁判員が欠席するときは、各院4人ずついる予備員が出ることもあるが、補充は必須ではない。 国会議員は多忙だし、国会のスケジュールも不規則だ。毎回14人揃えるのが難しいことも理解できるが、結果として15回の公判中、裁判員席がすべて埋まったのは4回だけ。正規の裁判員が揃ったケースに限定すれば2回だけだ。 制度上、裁判員は衆参各5人いれば定足数を満たすため(裁判官弾劾法20条)、それを超えて裁判員席を積極的に埋めようという意識は薄いとみえる。
●過去と比べても圧倒的に長い裁判期間
裁判員の出席回数が少ない最大の理由は、今回の弾劾裁判が異例の長さになった点にある。 初公判は2022年3月2日で、判決期日の2024年4月3日までの期間は763日。過去9回の弾劾裁判では1940年代にあった284日が最長だから、歴代最多を大幅に更新している。 判決期日も含めた公判回数も、1950年代にあった13回を上回る歴代最多。それ以降は5回前後で推移していただけに、16回になる今回は特異だ。 裁判が長引けば、任期や選挙で裁判員交代の可能性が高まる。今回も初公判後に参院選があり、鉢呂吉雄氏(参・立民)が不出馬で議員引退し、裁判員が代わることになった。 加えて国会の慣例で、大臣や常任委員会の委員長などになった裁判員・予備員は原則辞職となる。たとえば、今年に入って裁判員を辞職した浅尾慶一郎議員(参・自民)は、現在参院の「議院運営委員会」の委員長だ。
●証拠提出に時間がかかった訴追委
では、なぜ期間が長くなったのか。最大の原因は訴追委員会にあるといえるだろう。 岡口判事弁護団の野間啓弁護士は、結審後の記者会見で次のように指摘している。 「原因をつくったのは訴追委。証拠整理ができず、訴追から証拠提出まで約1年5カ月かかった。それでいて、岡口判事の任期中(2024年4月12日まで)に判決を出すため、弁護側の立証期間を短くしろという趣旨の意見書を出してきた。 どういうスケジュールや証拠で弾劾裁判を運営するか、ほとんど準備せず訴追を決めたのではないか」 岡口判事の初公判は訴追から約9カ月後の2022年3月。しかし、このときは冒頭手続きしかおこなわれなかった。途中に参院選が挟まったとはいえ、冒頭陳述と証拠請求がおこなわれたのは、さらに約8カ月後の2022年11月30日だった。 ●慎重さが必要なケースほど、裁判員が変わりやすい 時間がかかった理由の1つには、訴追事由としてあげられた岡口判事の行為が13個にもなったことが考えられる。 過去の弾劾裁判で罷免となったのは、児童買春やストーカー、盗撮で有罪判決になるなど、犯罪やそれに準ずるケースがほとんど。そのため早ければ審理が1回で済み、第2回公判で判決ということもあった。 一方、今回は主として岡口判事のSNS投稿が問題となっている。女子高生殺害事件の遺族が起こした民事訴訟で、岡口判事の敗訴が確定しているように、不適切な行為があったことは疑いようがない。何度も繰り返された投稿に眉をひそめる人は多いだろう。 ただ、この民事訴訟で不法行為が認定された「遺族が洗脳されている」という趣旨の投稿について、最高裁は戒告の懲戒処分を決定しているものの、訴追請求まではしていない。 最高裁は、罷免事由があると判断すれば訴追請求することが義務付けられている(裁判官弾劾法15条)。言い換えれば、最高裁は裁判官をやめさせるほどではないと判断したともいえる。 また、女子高生殺害事件に関する投稿など4つの行為については、3年の訴追期間を経過している。これに対し、訴追委は13個の行為を一体として捉え、いずれも判断対象になるという立場だ。 論点が多く、より慎重な審理が必要になるほど弾劾裁判は期間を要する。しかし、判断する裁判員が代わる可能性が増え、精緻な判断が難しくなる。弾劾裁判は長期化に対応しづらい仕組みといえるだろう。 さらにいえば、訴追されると裁判官は通常、職務停止になる(裁判官弾劾法39条)。職務停止後も従来通り給与は支払われるが、判断が難しい事案ほど、その期間は長引く。