「私、手話できます」…ろう者の安全守るために奮闘する横浜の駐在さん
横浜市鶴見区の鶴見署北寺尾駐在所に、手話で防犯や交通安全を訴える警察官がいる。首都圏で「闇バイト」による強盗事件が相次ぐ中、ろう者の被害者を決して出したくない。巡査部長の長田幸治さん(48)はそんな危機感を持って、活動を続けている。(佐藤官弘) 【写真】手話のパフォーマーとして活動するアイドル・中嶋元美さん
「知らない人がインターホンを鳴らしても絶対に出ないで」
同区の施設で先月31日、長田さんは手話サークル「手・フレンド・鶴」のメンバーを前に、2時間近く手話で講話を行った。約20人の参加者の半分ほどはろう者。長田さんは水道業者などを装った「下見」が行われたり、ろう者が住んでいるとわかると狙われたりする可能性があることを丁寧に伝え、聴覚に障害がある人向けの110番アプリなども紹介した。
同サークルの吉崎紀子会長(54)は「手話で伝えてもらうことで、皆さん自分のこととして受け止められたと思う」と話した。
かつては高速隊で交通違反の取り締まりなどを行っていた長田さんが、北寺尾駐在所に配属されたのは2016年。翌年の秋頃、巡回先でろう者の夫婦と出会った。筆談でも意思疎通がうまく取れない。「これでは事件が起きたら大変だ」
それからは、ろう者と交流する中で少しずつ手話を学んだ。「コミュニケーションは通じる楽しさがあるかどうか。初めて会った人でも手話がわかると一気に距離が縮まる」と、その力を実感した。
数年前、鶴見区内でろう者が当事者になる交通事故が起きたとき、手話で「私、手話できます」と伝えると、不安そうな顔が一瞬で明るくなった。「周囲が色々会話している状況は、ろう者にとっては不安。だからこそ、なるべく早く通訳できる人が現場に行く必要がある」。長田さんは今年、横浜市手話通訳者登録試験に合格し、市から通訳者として、ろう者が参加する自治会の集まりなどにも派遣されるようになった。
県内では横浜市瀬谷区の瀬谷署北新駐在所が「手話駐在所」の看板を掲げているが、それでも現場で手話が使える警察官はまだ少ない。県警は、事件や事故の現場で手話通訳が必要な場合、行政が指定する施設に連絡し、通訳者を派遣してもらうが、到着までには数時間かかるという。
青森県警や兵庫県警は、手話通訳官や手話通訳員として警察官を現場に派遣しているが、県警にはそういった立場の警察官はいない。県警教養課は年2回の手話講習などを通じ、簡単な会話が学べるよう取り組んでおり、「手話ができる警察官を増やしていく足がかりにしたい」としている。